同業者の悪口を言いたくないが、プロのモラルだけはもってほしい

 先週金曜日の夕方、面談を予約していたA社のK総経理、人事部長課長ら3人が来社した。

 「数年前、会社を立ち上げた当時、某日系コンサルティング会社B社に作ってもらった人事制度は機能しない。ここ2~3年に、いろんな問題が発生し、ストライキにも遭遇した。従業員が問題を起こして、いざ処罰しようとすると、就業規則に該当処罰条文が見当たらない・・・」

 同じ問題に直面している会社は何もこのA社だけではない。このようなことは、月に何回も何回も企業から聞かされている。

 「立花先生は凄い。セミナーや面談でおっしゃっている問題点やトラブル事例は、ずばり、うちの会社はほとんど当てはまる」

 私は超能力の予見者でも何でもない。ただ、日々現場でよく直面する問題点を羅列するだけだった。それだけ企業の皆さんが共通の問題点を抱えているからだ。

 同業者として、他のコンサルティング会社や弁護士事務所が作った制度や契約書を貶すことは決してしたくない。しかし、最近、正直言って腹が立つことがしばしばある。初歩的なミス、明らかな違法条項、会社の権利の放棄や余計な義務の引き受けなどなどが目立つ。ずさんな代物は多々ある。明らかにどこかインターネット上に氾濫するモデル雛形を引っ張ってきたものも散見される。無知、無責任極まりない。勉強している痕跡がないから、腹が立つ。

 中に立派なものもある。立派過ぎて、泥臭い中国の現場で実施できないとなると、また問題だ。とにかく、人事労務現場の問題は多すぎる。

 少し前の話だが、別の日系企業C社がDコンサル会社の提案した制度を採用するつもりで、私のところに、セカンドオピニオンを求めてきた。案の定、問題だらけ。私は、こう提案した。「Dコンサル会社の担当者を呼んで、合同会議をやりましょう。条文一条一条、なぜこのように作ったのか、まず主旨を聞いたうえで、私が問題点を提示し、一緒に議論して、先方の意見と私の意見、それぞれ根拠を出して、客観的に、論理的に全員が納得するまで議論して、案を固めましょう」

 しかし、Dコンサル会社に断られた。お客様にとって、一番利益になる提案をなぜ断るのか。私が提出した制度案は、他社や他の専門家の批判を喜んで受けたいと思っている。私のミスであれば、「ごめんなさい」と、速やかに訂正する。顧客企業の利益だけでなく、自分の利益にもなる。自分のミスを一つでも多く指摘され、改正する機会に恵まれれば、素晴らしい利益ではないか。
 
 学界なら、学会というものがあって、研究者や学者が自分の観点と根拠を出し合って議論する。議論があってこその進歩だ。実務界になると、一気に閉鎖的になってしまう。

 何とか、この局面を打開したい。