試合に参加する審判員、中国ビジネスの取引コスト

 昨日5月11日の記事で、天津空港が軍事演習のため3時間以上も閉鎖し、全便遅延になったことを記した。通常、天候不良や機材の問題で遅延になった場合、乗客が相次いで不満を爆発させることが多いが、妙なことに、軍事演習で何時間待たされても、不満やクレームは一つも出ない。

 航空会社は、乗客から苦情が来た場合、「軍事演習だから、私どもとしてどうしようもありません。文句があったら、国に言ってください」と答えるだけで、これ以上の議論には発展しない。国や行政に対し、中国国民はいかに無力なのか。中産階級が増えれば増えるほど、反骨精神が薄れ、現状温存の傾向が強まることは、どこの国も同じだ。そういう意味で、どこの国もが中産階級層を増やし、ラグビーボール型の社会を作りたがることに納得するだろう。これは、「内政平和」の基盤である。

 特に軍や警察は、国民の公僕であることへの自己意識は薄い。それよりも、傲慢と特権意識の塊になっている。法を執行する人たちは、法をあまり知らなかったり、法の真義に一知半解だったり、あるいは法は国民に対するものであって、自分たちに対するものではないという擬似治外法権的な誤認に陥っている。このような国はやはり完全法治とはいえないし、法治という土台をなくして、完全市場経済の地位は認められるはずがない。

 市場経済は競争である。それを試合にたとえれば、国や行政がその試合の審判員になるはずだ。しかし、その審判員自身も試合に参加してしまうとどうなるか想像してほしい。しかも、試合が進行しながら試合のルールをどんどん変えてしまう・・・

 そういうとき、試合に勝つためには、相手チームだけでなく、審判員の一挙手一投足にも最大な注意を払わなければならない。「守り」「攻め」、そして「審判員動向の確認」も必要なのは中国ビジネスだ。余計なエネルギーが必要なうえときには損害も出る。それは経済学でいうと、「取引コスト」である。中国ビジネスでは、必ずこの「取引コスト」を加味しなければならない。

 私を含む全乗客が軍事演習で3時間も機内に閉じ込められ、大きな時間的無駄が生じている。出張先での会議が遅らせられ、お客様にまで迷惑がかかり、第三者にまで被害が拡大する。そして、航空会社の機材の使用予定も狂い、損害が出る。さらに、次の便や次の次の便を利用する乗客には連鎖的損害が及ぶ。それだけではない。数十機の飛行機が3時間以上もゲートに駐機したまま、機内エアコン全開で排気ガスを出し続け、環境汚染につながり、地球も被害者である。これは、まさにその「取引コスト」なのだ。