10年

 10年前の2000年6月、生涯忘れることはない。私は、サラリーマン人生に休止符を打った。35歳だった。(「私はこうして会社を辞めました(57)―逃げ道は断たれる」

 起業資金は退職金の300万円余り、資産は3年間償却済みの古いノートパソコン1台、1年で事業を軌道に乗せられなかったら、路頭に迷うことになる。当座の生活資金は失業保険で当てることにし、ハローワークにも通った。旅行などはもちろんできなくなった。豊かな生活は過去の歴史になった。友人に誘われても理由を作って飲み会を断った・・・

 あっというま、10年経った。床屋にいって、「白髪がずいぶん増えましたが、染めましょうか」と言われるようになった。

 10年後のいま、依然として小さな零細企業ではあるが、かなり強い小粒になった。精神的にだいぶ自信と余裕が出来た。

 携帯電話の名簿をざっと見ると、顧客だらけだ。友達は?10年で親友といえる友達はほとんど消えた。

 世の中、得るもの、失うもの、つねに均等しているのだ。人生は、会社財務のバランスシートと同じだ。資産の部、負債の部、つねに借方金額の総計と貸方金額の総計とは等しいものだ。

 起業して、経営者になり、唯一大きな変化は、自由を手に入れたことだ(もちろん、対価も払った)。そして、感謝する気持ちがより強くなった。幸せをより意識するようになった。この際、次の10年をじっくり考えなければならない。どんな夢を持とうか・・・。