ベトナムの魅力とは?
中国と比べると遜色が否めない。あるいは経済誌が「ポスト中国」としてその可能性を検証しているようだが、私は賛成できない。ベトナムは、むしろ中国の補完とヘッジとして重要な戦略的意義をもつ存在である。
「China+Vietnam」=「CHINAM」。
私自身の造語として、自分のデータベースに組み入れた。ベトナムは、中国が持たない多くの物を持っている。ベトナム戦争であれだけアメリカに蹂躙されたこの国では、あまり反米感情が感じられない。アメリカよりも、ベトナムはむしろ背後の大国、中国を警戒している。
「ベトナムには色々な外資が進出している。いちばん嫌われているのは、中国本土系企業だ」。思いもよらぬ発言をするのは、先日私のインタービューを受けた、在越10年を数える某中国人弁護士だ。「中国企業は、ベトナムで投資して『おまえらを食わしてやってるんだ』と態度がデカイし、ベトナムの法律やらコンプライアンスなんて毛頭考えていない。訴訟になって、弁護士に『ベトナムの連中らをやっつけろ』と、こんな感じだ。もう少しベトナムに敬意を払ってほしい・・・」
ベトナムの経済成長は遅い。未だに高速道路一本もない。それがベトナムの魅力ではないかと私はパラドックス的思考回路が好きだ。ホーチミンの街を見ても、まさに90年代初期の上海を思い出す。中国は20年足らずの短期間で、世界2位の経済大国の座についたが、ベトナムは今後30年ないし半世紀の歳月でキャッチアップできるのだろうか。いや、キャッチアップよりも、ベトナムはきっと独自の道を歩むだろう。
ベトナムは、ポスト中国ではない。中国のニッチなのである。「スロー」には、「スロー」の使い道がある。中国を使いこなしながら、ベトナムも同時に使いこなす企業は、不敗の地位を手に入れられるかもしれない。
雨上がりのサイゴンの夜空の下、サイゴン川が静かに流れている。私はマジェスティック・ホテルのブリーズ・スカイ・バーにいた。ベトナム戦争時には各国のメディアの情報交換の場だったこのバーでサイゴン川のノスタルジックな風景を眺めながら、思いにふけりグラスを傾けるというエピソードが残っている。
もう、ベトナム戦争は二度とないだろうが、この地にいつか爆弾の入道雲が上がらない「戦争」が再発するだろう。もしや、すでにひそかに戦争の序幕が開かれたのかもしれない・・・
私にはそう見えた。
<終わり>