収入格差、物価格差そして幸福格差

<前回>

 今日はタイ滞在の最終日。夕方にチェックアウトして、深夜便で上海へ戻る。

 とにかく、タイの物価が安い――。今回滞在の全体的感想だ。上海に比べると、二分の一から三分の二という感じになる。90年代当時、上海からバンコクに来て、あっ、タイは安くないねと感嘆したことをいまでも覚えている。いかに中国、とくに上海の物価がこの十数年に急騰したかを実感させられる。

51026_2アンダマン海を眺めてモーニング・シガー

 ところが、タイの物価上昇率が低いわけではない。タイ商業省が発表した11年1月の消費者物価指数(CPI、速報値)は前年同比で3%上昇した。16か月連続のプラスだが、上昇率は3%台前半で横ばいで、昨年の物価上昇率は2009年比3.3%というデータもあり、全般的に中国に比べて安定的な推移とも言える。

 通貨のバーツは、現在1バーツ2.8円で、便宜上1対3で考える。すると、日本人にとってみれば、物価の安さが目立つ。ホテルで豪華な食事をしても、平均一人400~500バーツで、円換算で1500円程度(ちなみに、一般タイ市民の食事は、40~50バーツ程度)。

 しかし、平均生活、物価水準を考えると、決して1バーツ=3円ではないことに気付く。タイの大学新卒者の初任給(月給)は平均1万5000バーツ~2万バーツ。日本の場合15万円~20万円だから、ちょうど10倍という計算になる。それが妥当な実質換算水準だとすれば、ホテルの食事が1万5000円という値段になり、まあ、日本の高級ホテルで食事したら、これくらいかかるだろうと、概ね相当する。

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 ということで、タイに来て、銀行レートのまま3倍円換算して、格安感につられて湯水のように金を使ってしまうと、タイの人たちの目にやはり異様に映ってしまうのだろうか。それよりも、観光業がタイの一大産業であって、外国人観光客の消費が確実にこの国の経済に貢献していることは間違いないだろう。

 たとえば、タイも高度経済成長を目指してがんばれば、ある程度の余分の豊かさも手に入ることだろう。しかし、収入増に伴い、インフレ、物価上昇、余暇時間の減少、汚染、心の病・・・全般的に損得を計算して、果たして幸せになるだろうか。それは、あくまでもタイの人たち自身が決めることだろう。

 今日も太陽のような微笑を見せるタイの人たちをみてふっと思った――。国民幸福指数の換算をしたら、日本は決してタイの10倍でも3倍でもないはずだ。もしや逆転しているのかもしれない。経済成長、GDPとはいったい何を意味するのか、それと幸福度の関係関数を算出できる人がいたら、まちがいなくノーベル賞を受賞するだろう。

<終わり>