料理人育たない街の料理店、チェーン店時代逆行の「魚まさ」

 食材が何でも揃う函館は美食の天国だ。温泉旅館の1泊目は夕食を外してもらい、街に繰り出す。出向くは、五稜郭にある居酒屋「魚まさ」。

63580_1函館 居酒屋魚まさ五稜郭店

 「食材は、野菜も魚も穀物も地物を優先して使う」ことを売りにしている店。鮮度と品質のこともあるだろうが、「ただでさえ不況感の強い地域だけに、なるべくお金が市外へ出ていかないようにしている」というのは高野社長の考え。

63580_2塩水ウニ
63580b_2イカゴロのルイベ

 函館は、魚介類が美味しい街。切って出すだけでも立派な一品になる。古くから、「料理人が育たない街」として知られている函館では、結果的に、「自宅で食べても同じ」となりがちで、一般の地元客はなかなか外食に足を運んでくれないという。

63580_3にしんの刺身
63580b_3夏ブリの刺身

 だったら観光客中心に取り組もうではないかと。私は函館入りの3日前に予約を入れておいたが、連日超満席の店だ。テーブルは3回転以上。食べ終わって店を出て正面に待機していたタクシーに乗ると、運転手が笑って教えてくれる。「ほら、そこに立ってる、先降りたお客さん、ずーっと長い時間席を待ってたのよ。ほかにも店があるから、紹介するよと言っても、どうしてもここじゃなきゃダメだと・・・」

63580_4男爵いもを食べて育つ黒豚の餃子

 観光客は、函館に「自宅」がなく必然的に外食となる。観光客向けの店で価値を認めてもらえれば、それは立派なビジネスだ。

63588_1黄金色に焼き上がった地ものジャガイモは烏賊の塩辛でいただく

 FC(フランチャイズチェーン)全盛期の現在、外食産業が工業の一分野に分類してもおかしくない。食材の調達からセントラルキッチン、サービスのマニュアル化まで、標準化や大規模化による経済性の追求は、ある意味で消費者、美食家の食の楽しみをはく奪している。このような側面も否めない。

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63588b_2これぞ函館の活イカ、ゴロ付でいただく

 この函館の「魚まさ」も同様の境遇に置かれた。函館の名物イカといっても、東京のセンターでカットして冷凍されたものと函館現地の地ものとの味の差は歴然としている。しかたなく、一部地場食材を取り入れると、固定客が増加に転じ、効果がたちまち現れる。これに対してFC本部は黙認の形を取っていたらしい。

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63588b_3見てこの肉厚、これも黄金色自家製ホッケ一夜干し

 「味がいいからお客さんを連れて来たい。でも、チェーンののれんでは接待に使えない。惜しい」。常連客からこのような声が上がっていると、高野社長は決心をし、とうとう2004年にFC本部と交渉して契約を解除し、函館の五稜郭店と美原店を独立した「魚まさ」に転換させた。

63588_4締めくくりもまたまた黄金色、焼きおにぎり茶漬け

 私は食事をしながら、店舗経営の概略を読んでいると、思わず共感を覚える。規模よりも中身重視、地場に密着した店舗経営に徹する。私自身が経営しているエリス・コンサルティングも支店開設や拡張を拒み続け、小規模経営に固執してきた。決して、間違っていない。