ベトナム中部(3)~古都巡り、阮朝王宮の痛々しい弾痕

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 4月30日(日)、フエ。古都の朝が清々しい。眼下に流れるフォン川は晴れ渡る空と相まって青々しく美しい。

 古都巡りの日。朝8時30分、日本語ガイドが迎えに来てくれ、半日観光に出かける。リバークルーズを楽しみながらの移動。ゆったり流れる時を実感する瞬間である。

 しばらくして、船はティエンムー寺の船着場に到着。ティエンムー寺は、煉瓦造りの禅寺、たびたびフエの代表的景色の1つにもなる有名な寺だ。漢人文化の影響を色濃く受けた八角形七層の塔が特徴。屋根にある龍や鳳凰の飾りがいかにも派手だが、一歩中に入ってみると、色彩のトーンが押さえられ、落ち着いた雰囲気で日本の禅寺を想起させる。

 フエ観光のメインは何といっても、グエン朝王宮。

 フエは、1802年から1945年まで13代続いたグエン王朝の都が置かれていた古都である。ただ残念ながら戦禍を受けた古都は、多くの文化財を失った。王宮の壁にはいたるところ弾痕が残っており、痛々しい。

 ベトナム戦争中に、文化財を盾に王宮に大量のベトコン兵士が逃げ込んだ。だが、彼たちの淡い期待が見事に外れ、王宮は米軍の爆撃を免れることがなかった。

 多くの宮殿が爆撃で全焼した。不毛な荒野と化した跡地に王宮の華やかな全貌を再現しようと、現在は大規模な修復再現工事が進めれているという。

 「あと、10年くらいしたら、もう一度フエに来てください。王宮は完全に昔の状態に戻って生まれ変わったはずです」。ガイドの好意には社交辞令的に私は頷きながらも、「歴史そのものは戻れるはずもなければ、生まれ変わったものはもはや新たな歴史に過ぎないだろう」と自分に言い聞かせた。

 戦争は二度とあってはならないというが、二度も三度もやってくるものだ。

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