南部アフリカ紀行(24)~咀嚼機能と野性味、私のゲームミート美食学

<前回>

 チョベ帰り、ビクトリアフォールズのホテルでシャワーを浴びて一休みすると、そろそろ夕食の時間。チョベは良かったが、ツアー運営に少々問題があってややテンションが下がった自分に元気をつけようと、ゲームミートを食べに行くことにした。

インパラステーキ

 向かったのは、ホテルから徒歩10分ほどの場所にあるアフリカ料理店「Lola’s」。まず目につくのは、インパラ肉。即決、インパラ肉のステーキを注文。焼き具合は本音ならミディアムレアだが、衛生上の懸念で最終的にミディアムにした。妻は珍しいこともあって、バッファローのシチューを注文。

バッファローのシチュー

 アフリカが私を魅了する要素の1つは、ゲームミート食である。野生動物の肉は硬い。そういうイメージがあるだろうが、私はむしろその硬さをこよなく愛している。

 まず断わっておくが、ここで書かせてもらっているのはあくまでも、私自身の感受性、あるいは食に対する観念的な部分であって、唯一の正解ではないし、また唯一の正解などはあり得ない。つまり、「いや、やはり柔らかい肉がおいしい」というのも当然もう1つの正解であって、無数の正解から引き出されたAとBを戦わせるのがナンセンスだ。故に反論とならない論戦はやめよう。

 「柔らかい肉」――。日本人一般ではなぜか、「柔らかい肉」を好むのか。噛みやすいから?あるいは噛むことをほぼ不要とするから?「とろけそうな・・・」という形容文言は、通常「美味しさ」を表現するものだ。それはつまり咀嚼行為の簡略化を前提に、歯よりも舌や軟口蓋にある味蕾がより容易に機能することを目的としている。

 それは日本人特有の味蕾の発達性に関連しているかどうか、申し訳ないが、私は専門家ではないから、ここで論じるつもりはない。ただ1つだけ、日本人の歯は世界的に見ても決して強い部類ではないことはどうやら間違いないようだ。多くの日本人は幼少時から簡単に虫歯にしてしまい、痛くなったら削って詰めるという治療を繰り返している。

 身体の他の部分は悪くなったら治療して元通りに治すことが可能だ。あるいは少なくとも一部修復することができる。だが、歯だけは復元性がない。一種の消耗品である。この消耗品の自己防衛に起因してあえて日本人は食行為に歯よりも舌や軟口蓋を多用する、このような関連性はあるかどうか、これも専門家の研究に委ねたい。

 本題に戻る。柔らかい肉を好まない私の場合、高価な和牛なども進んで食すことはあまりない。通常でも国産和牛よりも安価な豪州産や米国産の赤身肉を好んで食べる。咀嚼機能全開したときの快感を存分に味わっている。そこからエスカレートしていく先はゲームミートだ。

 硬い肉とは決して筋っぽくて噛めないほどのものを指しているわけではない。ほどよい硬さに弾力を感じさせ、そこで歯がリズミカルな躍動感をもって機能することが望ましい。量的問題として、咀嚼回数との関連性を取り上げたい。

 食べ物の咀嚼回数は、通常30回を標準としている。日本咀嚼学会もその上下の柔軟性を認めながらも30回という数字を推奨している。ただ私は通常30回も咀嚼していない(食べ物による)。味がなくなってまずくなるからだ。ビーフステーキの赤身肉に関して、私自身の基準では、10~15回の咀嚼で概ね噛み砕き、20回から最大25回程度で食片を嚥下することを目安としている。

 ゲームミートは食べてみると、ビーフの赤身と変わらないかわずか硬い程度で、ほぼビーフ同様の咀嚼回数で嚥下している。そしてあくまでも精神的な部分になるが、ゲームミートはほどよい咀嚼をもって、最良の食感を得られ、野生的なイマジネーションを呼び起こすホルモンの分泌促進につながるような身体的感覚をもっている。

 ゲームミートに合うワインは、やはりフルボディのシラー(赤)。ただ原産地のフランスのコート・デュ・ローヌ産よりも、ニューワールド系の豪州産や南ア産がより野性味を引き立ててくれる。

<次回>