<KL>重慶香辣鍋、燃える火鍋と香り高きトリュフオイル

 マレーシアは最近、辛い四川火鍋が流行っている。現地の食通友人に勧められたクアラルンプールの火鍋店「重慶香辣鍋」(Chong Qing Xiang La Guo)に早速出かける。

 クチャイ・ラマ(Kuchai Lama)界隈は中華系グルメ天国だ。「借金しても食べるべし」とされる店が数多く集中している。魚頭米粉、チャーシュー・ワンタン麺、蝦麺、焼き羊、焼き豚、焼き鴨、四川料理、湖南料理、海鮮料理、飲茶・・・。その一角には「重慶香辣鍋」の赤い看板があった。

 友人の特別配慮で予約してもらった窓側の一等席につくと、早速注文。火鍋の注文は、鍋底スープから始まる。本日は 「麻辣」と「老鴨湯」の鴛鴦(仕切り鍋の2種類スープ)にする。「老鴨湯」も出汁が効いていて美味しいし、同行の初心者日本人友人には「逃げ道」、辛くない選択を一応残しておこうという意味もあった。

 具材は一般的な豚肉、牛肉、羊肉以外に、やはりくせ者系を食べずにいられない。まずは先日ペナンでも食べたのだが、豚の脳みそを注文。これはこれはまた新鮮そうな豚脳みそが出てきたじゃないか。同行の日本人友人は大丈夫だろうか。今日の関門を乗り越えれば、次は中上級者コースにいける。

 火鍋には、ごま油でいただくが、さらに私は特別にトリュフオイルをも持参。ごま油は口に膜を作ってくれるから、辛さを和らげ全体的に味をマイルドにする作用がある。さらにトリュフオイルが加わると、その独自の香りが具材の旨みを引き立て、辛さと旨さのバランスが一段と良くなる。

 さあ、いただきます。豚の脳みそ、白子に酷似する食感と味が辛旨みのしゃぶしゃぶ状態で、ごま油とトリュフオイルの混合体によって上品な香りと旨みが引き立てられ、絶妙なハーモニーを織り成す。

 ブラボー!ブラボーの連発だ。

 はい、まだまだ続く。これも定番だが、必食の蛙と豚の腎臓。日本人にはゲテモノ部類に分類されがちな具材で、グロテスクとか臭いとかいろんな見方や適性もあるだろうが、美食観以前の問題でやはりいささか先入観たるものはないだろうか。その関門を乗り越えれば、美食の世界が一気に広がる。

 辛い、辛いという四川火鍋。中核的な要素は概ね3つ――香(シャン)、辣(ラー)、麻(マー)。香り、辛味、麻味(痺れ感)である。特に「麻味」(マーウェイ)を重視したい。花椒(ホアジャオ=中華山椒)は麻味の元になっており、日本の山椒とは異なるものであり、舌と口腔部全体に感電するような痺れ感を与える。

 中国語で「麻辣」(マーラー)といって、まず辛味の前に麻味がくるわけで、麻味がそれだけ重要な役割を引き受けているのだ。私は重度の麻味信者、崇拝者であって、麻味への追求も尋常ではない。そのためか、「重慶香辣鍋」の場合、前二者は文句なしの上等レベルだが、後者の麻味についてはもうちょっと増量してほしいものだ。

 最後に、酒のことに触れておきたい。四川火鍋にはやはり、白酒(バイジュー)と冷えたビールが合う。言ってみれば、白酒は酒であって、ビールはチェーサーだ。極辛の鍋が「火」だとすれば、淡泊強烈な白酒を呷ることによって、火には火を重ねることになる。白酒が入ると、妙なことに鍋の辛さも酒の強烈さも徐々に感じられなくなり、旨みだけが口中に残るようになる。この神秘な相殺効果というか融和効果というか、もう解釈不能な領域である。

 友人の計らいとオーナーの好意によって、白酒の持ち込みを許してくれたことに心から感謝申し上げます。本当に、本当に、ご馳走様でした。

<次回>

★ 重慶香辣鍋(Chong Qing Xiang La Guo)
12a, Jalan Kuchai Maju 9, Kuchai Entrepreneurs Park, 58200 Kuala Lumpur
TEL: 03-7972-3533