【Wedge】ハノイの日本人キャバクラ、大和撫子ブランドはベトナムに売り込めるか

 アジアの少々カオスな街には共通点がある。進出する日系企業が増えると、日本人駐在員も増える。日本人駐在員が増えると、日本人向けのいわゆる水商売も連動して増える。そしてついに日本人キャバ嬢がいるキャバクラまで出現するというような因果律が存在するようだ。

ベトナムのハノイにオープンした日本人キャバクラ「クラシックス」(写真:筆者提供)

● ハノイの夜と日本人キャバクラ

 ベトナムといえば、ホーチミン。夜のホーチミンはやはり、「サイゴン」という名が相応しい。一方で、それと比べて首都ハノイのほうが幾分上品さが漂い、どうも「夜」というカオスなイメージでは、ホーチミンに負けているようにも思える。そんなハノイに、なんと日本人キャバクラができたと聞いたとき、いささか驚いた。

 ハノイ市内の繁華街キンマーに近い閑静な住宅街にある高級コンドミニアム「ランカスター」。その2階にあるのは、日本人キャバクラ「クラシックス」(Classics)。キャバクラの名が付いているものの、装飾がやや派手なだけで全体的に落ちいた雰囲気でラウンジといったほうが適切ではないかと思う。

 今年(2018年)7月にオープンした同店は日本人キャストとベトナム人キャストが混在している構成だ。上手下手の差はあるものの、ベトナム人キャストは基本的に日本語ができる。実際にサービスに当たる際、通常は日本人キャストとコンビを組ませ、日本式の「OJT」を実施しているという。

 支配人の畠山氏に取材を申し込むと、すぐに快諾してくれた。営業時間前に入店し畠山氏と雑談を始める。

 どんな客が来ているかというと、日本人9割、韓国人その他1割という構成だ。そもそも日本人キャバクラがアジアのどこの街に行っても共通しているのは、現地在住の日本人駐在員や出張者がメイン客であることだ。外国人キャストやホステスの場合、どんなに達者な日本語を話せてもやはり、日本人同士にしか伝わらない「阿吽の呼吸」が難しい。そこで日本人キャストが本領を発揮するわけだ。

● 上海の日本人キャバクラはなぜ消えたか?

 遡って約13年前の上海。確かに2005年あたりだったと思うが、まさに中国ビジネスが佳境に入ろうとした頃、上海にも日本人キャバクラができたのだった。それが最初の1店から最盛期の2007年にかけて私が知る限り、3~4店まで増え、繁栄を極めた。

 当時の中国は今のベトナムに似て日本企業はいけいけどんどんで絶好調だった。進出企業が増え、日本人駐在員数も増えていた時期だった。接待費予算をたっぷりもつ日本人駐在員が連日店に殺到し、売れっ子日本人キャストの奪い合い合戦にまで発展する光景も決して珍しくなかった。

 しかし、上海の日本人キャバクラの好況はそう長く続かなかった。1店舗が消え、また1店舗が消えていく。わずか5年という短い期間で2010年を境に、上海から日本人キャバクラはすべて姿を消したのだった。

 2008年に中国の労働契約法が実施されたこともあって、人件費コストの増加が日系企業の主要経営課題に上り、安い賃金を看板とする「世界の工場」に翳りが見え始めた頃でもあった。言ってみれば日系企業も従来のように景気よく大盤振る舞いすることができなくなったのである。

 企業接待費の削減によって飲み屋で自腹を切って飲むとなれば、どんな人でも財布と相談しなければならない。そんな日本人客がチビチビ飲むようになったり、店に足を運ぶ頻度を落としたりすると、店の経営は大きなダメージを受ける。特に日本人キャストの人件費が経営を圧迫し、とうとう限界に達した時点で店を潰すよりほかない。日本人キャバクラに限って言えば、例外がない。

● 外食産業で繁盛店をなぜ出せたか?

 奇妙な光景である。水商売に近い日本ブランドである外食産業の競争は激しく淘汰が進む一方、繁盛店も少数ながら出始めた。好調に伸びている日本料理店を見ると、概ね日本人客よりも外国人・現地人客の比率が高いという共通点がある。中には8割や9割という高比率店もある。裏返せば単一の日本人客層に依存する日本ブランドは衰退ないし没落する傾向にあると言ってもよさそうだ。

 上海で日本料理店を経営する某氏が私にこう率直に打ち明ける。「日本人客でビール1杯と枝豆1皿で2時間も粘る人がいますよ。中国人客はトロやらウニやらどんどん注文してくれるので、客単価が数倍どころか、1けた違ったりすることもあるんです……」

 同胞の客に対する失望、いや絶望に近い心情の発露を非難することはできない。経営者は利益を上げることが第一義的な使命でもあるからだ。

 上海だけの話ではない、アジアをはじめとする海外に駐在する日本人にとって、帰国後の将来や老後の生活が決して確約された、安心できる状態ではなくなった。先が見えないと、いくら駐在中の賃金待遇が良くても、湯水のようにお金を使うわけにはいかない。それどころか、どんどん財布のひもを締め、節約に徹して将来のための資金準備を積み上げるのみだ。

 一方で、中国やベトナムのような新興国の現地富裕層はまったく違う。短期間に大きな富を築き上げた彼たちの悩みは実は、お金の使い道だったりする。その特徴の1つとして挙げられるのは、ブランドである。着るものから食べるものまで、とにかく世界で評判の高いブランド品(サービス)に飛びつくのである。

 日本料理というのは幸いにも世界で、健康食や美食ブランドとして広く認知されているため、脚光を浴びているわけだ。アジア各地において新興国の富裕層を惹きつけるマーケティングに成功した外食店は大繁盛する。一方で、主に日本人客を相手にするいわゆる正統派ビジネスはジリ貧に陥り、最終的に店を畳む運命から逃げられないケースも少なくない。

● 大和撫子ブランドとベトナム人富裕層市場

 日本料理と違って、日本ブランドの「水商売」はこれまではほぼ日本人客の一本に絞り込んできた。業態的にも外国人客を迎え入れる体制にはなっていない。既述した通り、上海での先発組を見ても分かるように結果的に、日本人客マーケットの状況に大きく左右されてきた。これからのベトナムが中国の経済成長の軌跡をたどっていくとすれば、最終的に日系企業がベトナムを離れ、次のフロンティアを探し求め、移動することはほぼ間違いない。であれば、単一の日本人客層に依存する業種業態は水商売に限らずいずれ衰退するだろう。

 上海の話に少し戻ると、日本人キャバクラは消滅したものの、実は日本人キャストは健在である。限られた現地の情報によれば、今年(2018年)前半現在、数名の日本人キャストが上海市内のいくつかの中国系KTV(カラオケ・ナイトクラブ)でホステスとして働いているのである。彼女たちの客はもはや日本人ではなく、中国人の富裕層である。しかも各クラブでは非常に人気があって指名が殺到しているとも言われている。これもひとえに日本人女性というブランドの威力発揮といってよかろう。

 外国人の日本人女性に対するイメージは、歴史的にほとんどアップデートされていないようにも思える。いわゆる大和撫子的なイメージはかなり定着している。そこから生まれる異様な憧れ、ないしやや病的なコンプレックスも見え隠れする。

 ならば、日本ブランドの水商売、「Made in Japan」のおもてなしを受け入れる立派な市場がベトナムにも存在しているはずだ。ニッチ市場かもしれないが、むしろ差別化を得意とする業者には最高のブルー・オーシャンではないかと私は思う。

 取材の最後に私は畠山氏に、ベトナム人富裕層の集客可能性について質問してみた。氏は一瞬に目を輝かせた――。

「そうなんです。まさにそれ、ベトナム人の富裕層。このマーケットは是非狙いたいのですよ。立花さん、何かいいアイデアはありませんか」

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