ハロン湾クルーズ(3)~ハロン湾の夕暮れ、私の小さな書物

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 ハロン湾の夕暮れ。海に浮かぶ奇岩群の稜線が夕日で黒く描き出され、旅人がセンチメンタルになる。谷川俊太郎の詩にはこんな一節がある――。

 「夕暮れは大きな書物だ。すべてがそこに書いてある。始まることや、終ることや、始まりも終りもしない頁の中に」

 なんと哲理的なことであろう。とはいっても、私にとっての夕暮れはあくまでも小さな書物にすぎない。ただ始まること終わることよりも、始めること終えることのほうが多いような気がしてならない。ニーチェ流の能動的なニヒリズムという目線で眺めていると、センチメンタルな夕暮れも少々変質したりするものだ。

 終りへの意味付けによって、始まりのあり方が決まる。と、私はこう思う。

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