【Wedge】敗色濃厚の中国不動産業、海外巨大事業もピンチ

中国の大手不動産会社がマレーシアで建設を進めている「フォレストシティ」の完成模型(写真:筆者提供)

● 「生き残れ!」と絶叫する中国の大手不動産企業

「活下去」――。

 中国の不動産大手万科(Vanke)の2018年秋季社内経営会議で打ち出されたスローガン。中国語で「生き残る」という意味だ。「活下去」の文字が大きく映し出された会場の写真がネット上で流れていた。

「同社の南方地区の9月経営月例会でもすでに、『活下去』のテーマが言及された。同社董事会主席の郁亮氏が不動産業の折り返し地点に差し掛かっているとの認識を示し、危機感を隠そうとしなかった。大手でさえこの状態だから、資本力が弱く、土地をあまり持たない中小不動産企業となれば、まさに戦々恐々だ」(2018年10月1日付「新華網」)

 中国にとって不動産ほど重要な産業はない。経済低迷に陥るたびに、政府は必ずインフラ投資を動員し、不動産市場にカンフル剤を打って危機を乗り切る、という手法を取ってきた。不動産は万能のけん引役で必ず作動する。一方、実需から乖離する不動産市場の相場は青天井で上がり続けてきた。世の中に崩壊しないバブルなど存在しない。

 供給過剰の状態が続くと、ゴーストタウンがいたるところに生まれる。それでも、なぜか不動産会社は潰れない。不動産デベロッパーの役割を担っている地方政府が傘下に融資担当の投資会社を抱えている限り、資金調達は成り立つのである。この仕組みはいつまで機能するのか、あるいはいよいよ危うくなってきたのか。異変は起きつつある。

「中国の不動産市場は、開発業者が金に糸目を付けずに土地を買いあさっていた昨年(編集部注:2017年)から状況が一変し、地方政府が行う土地使用権入札で不成立が増加している。(中略)入札の不成立は7月以降、大都市で目立って増えた。政府の引き締め策の長期化やマクロ経済の悪化で開発業者が流動性の減少や利ざやの縮小に見舞われているためだ」(2018年9月2日付「ロイター」)。

 タイミング悪く、米中貿易戦争に突入したため、もはやその影響は貿易にとどまらず、各方面に拡散し始めた。製造業の中国撤退、サプライチェーンの再編に伴い失業者が増加。失業すると、ローンの返済が滞る。そもそも中国経済を支えていたものは何かというと、「労働力」と「不動産」(=土地や資源の取引)なのだ。この2つに亀裂が入れば、まさに生死にかかわる大問題となる。

● 「鳴り物入り」の海外巨大事業にも赤信号

 中国経済を支えてきた同国の不動産業者は、海外事業でも頓挫している。

 中国人の大量移住によって東南アジア屈指の「中国人街」を作り上げる。その中核プロジェクトとして、マレーシア南部のジョホールバルに中国の大手デベロッパー・碧桂園(Country Garden)が開発を手掛けている「フォレストシティ」(中国語名:森林城市)は、大きなトラブルに見舞われている。

建設中のフォレストシティ(写真:筆者提供)

 はじめに肝心の本土中国人向けの販売が中止となった。2017年3月11日付けのマレーシア華字経済紙「南洋商報」がトップで報じた。中止の原因はどうやら、中国の外貨準備の急減にあったようだ。同紙は、海外不動産投資による資産流出を食い止めるための中国政府による外貨管理規制の一環ではないかと分析した。

 2017年1月末の中国外貨準備高は2兆9980億ドルとなり、約6年ぶりに3兆ドルを割り込んだ。同年2月7日付けのロイター報道(電子版)は、エコノミストらの分析を引用し、「今回の外貨準備減少を受けて当局が規制強化を強める可能性がある」と伝えていた。

 中国人街の造成はいうまでもなく、東南アジアにおける中国の影響力拡大に寄与するもので、中国の国益に合致する。だが、それ以上に外貨準備の減少が深刻であり、海外への資産流出抑制をより緊急度の高い政策とせざるを得ない事情があったと推測する。

 さらに2017年3月27日付けの「ニューヨークタイムズ」(中文版)もフォレストシティについて、「中国が海外への資金流出規制を強化したため、多くの投資家が残金支払い不能に陥り、状況が悪化している」と報じた。

 デベロッパーの碧桂園が資金リスクに直面するだけでなく、マレーシア国内の政治問題にもなった。「外国人に国土を売り飛ばす」ことで批判を受けてきたナジブ政権(当時)には大きな圧力がかかった。マハティール元首相(当時)は中国企業による都市開発が大規模になり「広大な土地が外国に占拠されてしまった。実質的には外国の領土だ」と猛烈に批判した。

建設中のフォレストシティ(写真:筆者提供)

 そもそもフォレストシティとはどんなプロジェクトなのか。マレー半島の最南端、シンガポールに隣接しているジョホールバルでは、イスカンダル経済特区という大規模な都市開発が進められていた。その中でも最大のプロジェクトがこのフォレストシティだった。碧桂園は今後20年間で1700億リンギット(約4兆3900億円)を投じ、14平方キロメートルの土地(ほとんど人工島)に都市を作り上げる計画であった。

 政治色の強い不動産開発案件が、政治的理由によって妨害されることは驚くに値しない。そもそも経済も産業も、政治的な目線で俯瞰しなければならない。

● 崩れゆくマレーシアの中国人街

 昨年6月、私はジョホールバルへ出かけた。目的は、フォレストシティの視察である。私が実際に見て感じた問題を以下に3つ記したい。

 ひとつは、ヒトの問題。計画によると、フォレストシティ内の人口は2050年までに70万人に達すると想定されている。この規模の人口はどこから沸いて来るのか。シンガポールへの通勤を前提に考えるなら、いまの出入国・通関はすでに限界に達している。ボーダー(国境検査場)を増やしたくらいでは到底追いつかない。

 それでは、移民という方向はどうだろう。多くの中国人は私財を海外に出そうとしているが実際に海外に住むとなると、ノーという人は多い。シンガポールを眺める人工島上で余生を過ごしたい中国人は、いったいどれだけいるのだろうか。また、仮に数十万の中国人が移民してくることになれば、マレーシア国内で大きな政治問題となるはずだ。

 次に、環境問題。人工島造成をはじめとする工事によって、マングローブが大量に伐採された。これだけの大変動に生態系は堪えられるのか、環境学の専門家ではないので掘り下げたコメントはできないが、素人目に見ても憂慮せずにいられない。

 最後に、金の問題。中国系のデベロッパーでないと、これだけの巨大投資はできない。とはいえ、無尽蔵に資金が沸いて来るわけでもない。現時点で出来上がっている人工島(写真 赤線枠)は計画のわずか一部に過ぎない。キャッシュフローは大丈夫か。他人事ながら心配せずにいられない。

フォレストシティの全体図(赤枠内が現在すでに出来上がっている部分)(写真:筆者提供)

 私が視察した2か月後の2018年8月27日、マハティール首相はついに、「フォレストシティの外国人向けの販売を中止させる」と表明した。「外国人購入者にはビザを与えない。マレーシア人のための街建設ではないからだ」と単純明快にその理由を説明した(2018年8月27日付「チャンネルニュースアジア」)。

 フォレストシティはジョホールバル地域の不動産相場を大きく上回っており、マレーシア国民の収入水準を考えると、手の届かない物件だ。マハティール氏の決断は正しい。一部の政治家や利権団体のためのプロジェクトは国益に合致しない。

フォレストシティの物件内部(写真:筆者提供)

 フォレストシティの前途はどうか。開発にまだ着手していない大半は、埋め立ても含め大幅な計画見直しを迫られるだろう。中国企業は往々にして政治と絡めてビジネスを進めたがるが、政治は諸刃の剣でもある。

● 基幹産業になり得ぬ不動産、中国の苦闘

「活下去」。万科の絶叫はある意味、中国の不動産業の苦境を代弁しているように思える。今年に入っても一向に状況の改善が見られない。

「中国のマンションを中心とした住宅販売が変調をきたしている。万科企業など住宅大手4社の2019年1月の販売額は前年同月に比べ3割超も減少した。上海や深圳をはじめ主要都市の価格高騰が収まり、投資資金の流入にブレーキがかかっている。需要の頭打ちが長引けば、財政を土地売却に依存する地方政府の資金難や建設・不動産などの雇用悪化を通じて景気への悪影響は避けられない」(2019年2月15日付「日本経済新聞電子版」)。

 基幹産業とは、一国の経済発展の基礎をなす重要産業を指す。ドイツは機械・自動車、イギリスは金融、フランスは文化、スイスは精密機械・観光、日本は電機・自動車、台湾は半導体、シンガポールは金融・フィンテック……。中国の基幹産業は不動産だった。バブルになりやすい不動産の脆弱性に気付いた中国は「脱不動産」を図り、IT産業に力を入れ、サプライチェーンの上流を抑えようと乗り出したわけだが、これも今、米国との貿易戦争の最中にある。

 生き残りを賭けた中国の不動産業の苦闘は今も続いている。

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