【世界経済評論IMPACT】ウクライナ戦争の最悪シナリオ、露印中(RIC)圏の結成

 ウクライナ戦争の最悪シナリオを描いてみたい。

 以前から、「BRICs」という概念があった。2000年代以降に著しい経済発展を遂げた4か国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の総称として使われてきた。この4か国のなかの3か国が「同盟」を組み、欧米陣営と対抗したらどうなるか。

 ロシア、インド、中国(RIC)は、欧米の対露制裁に対抗して金融決済を含む独自の取引網を構築する方向に向かっているようだ。ウクライナ危機は特に中国にとって大きなチャンスとなる。

 ロシア制裁がエスカレートすれば、ロシアは苦境に陥るかもしれないが、ただ中国ないしインドの支援があると、話が違ってくる。欧米は中国やインドの連帯責任まで追及し制裁に踏み切れるのか。ロシア制裁だけでもブーメラン効果が深刻なのに、それ以上の制裁拡大はできるのか。

 言葉を変えて言うならば、欧米諸国(日本も含めて)はRIC圏以外に独自のサプライチェーンを構築できるかだ。物理的にできるとしても、そのコストは莫大であり、どう分担するのか。痛みを分かち合うことはできるのか。何よりもその負担は欧米陣営各国の国民にのしかかってくる。民主主義国家には無理だ。

 ロシアのウクライナ侵攻を非難する決議が国連総会で採択された際、141か国が賛成した。しかし、中国もインドも棄権した。ロシア問題における中印の利害関係の一致があった。

 RICの3か国について、露印と中露は問題ないが、中印の国境紛争だけがネックだ。中印両軍は3月11日に軍団司令官クラスの協議を行う予定になっている。したたかな中国は態度軟化もみられ、国境問題の早期解決あるいは棚上げを目指し、インドとの協議を急いでいる。

 RIC圏の結束ができあがると、東南アジア諸国は事大主義の傾向が強く、経済的に中国依存であるから、欧米に面従腹背でRIC圏に集結するだろう。その場合は、日本と台湾だけがかなりジレンマと苦境に追い込まれる。

 特に日本は経済的に中国サプライチェーンの一部でも寸断が生じれば、経済界の反発だけでなく、国民生活コストの急上昇でまず政権はもたない。台湾について、半導体という強みがある。ただそれを安保上完全に「国策産業化」できるのか。産業界の変節があれば、中国は半導体産業を手に入れることもできる。

 では、地政学的に、新冷戦の境界線はどこのへんに画定されるのだろうか。

 東南アジアに及ぶ広域RIC圏ができた時点で、第一列島線の南方半分が崩壊し、インド洋と太平洋の分断になる。さらに中国が台湾侵攻・占領すれば、第一列島線が完全崩壊する。第二列島線は日本本土の攻防にかかっている。日本は核をもたない限り第二列島線の陥落も時間の問題だろう。

 最終的に、新冷戦の境界は、第三列島線、ハワイ西方あたりに落ち着く。西太平洋は中国の手に落ち、中国は北大西洋条約機構(NATO)ならぬ太平洋インド洋条約機構(PITO)をつくるだろう。

 「太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間がある」。これは2013年6月、習近平が米国を訪問し、オバマに伝えた言葉である。米中による太平洋分割統治論とも呼ばれるが、ハワイを境に東太平洋を米国が、西太平洋を中国が統治するという考え方だ。最悪のシナリオとして、これが現実になる。

 この最悪シナリオを阻止するには、トランプがやっていた「中露分断」戦略しかない。しかし、バイデンは「中露共同体」を作り上げようとしている。世界の宿命なのかもしれない。

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