【Wedge】働き方改革(14)~「内弁慶」な日本企業が世界で大損しているワケ

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 富士山の全貌を把握するには、登山するよりも、なるべく遠く離れて眺めたほうがよい。日本企業の特殊性や異質性を知るには、海外の日系企業、しかも日本人が経営に当たっている日系企業を見たほうがよい。日本企業がもつ性質と企業を取り巻く経営環境とのコントラスト(ミスマッチ)は眩しいほど鮮烈である。

● 海外日系企業に共通する問題点

 私は仕事の関係で中国やベトナム、アジアの日系企業との接点が多く、考察する機会に恵まれた。この20年近くの実務から一言で総括すると、アジアの日系企業が抱えている経営上の問題点や課題は驚くほど酷似している。

 最近、企業のヒアリングをしていると、責任者から聞かされる内容は、どこもかしこも似たようなもので、冒頭部分を聞いただけで結末や全貌がすぐに分かってしまう。私は決して特別に賢い人でも何でもない。数百通りの類似ストーリーを聞かされると、誰でも帰納法のスイッチが入り、私と同じような状況になるだろう。

 もちろんすべての日系企業とは言わない。ごく少数の例外もある。現地に深く根ざした日系企業、いや、すでに日系企業らしさを失い(良い意味で)、土着したローカル企業にさえ見えてしまうほどの企業も存在する。拙稿の趣旨からして、あえてこれらは特殊事案として除外する。

 一般的な日系企業の場合、トップや経営幹部は、駐在員として日本本社から派遣されてくる。海外出向も含めて日本企業の転勤制度は、「低次・顕在的従属性」グループに属し、正社員制度の基盤でもあり、社員なら誰もが拒否できない(参照:異動シーズン、転勤はサラリーマンの宿命なのか?)。

 なかには海外、あるいは特定の地域に行きたくて赴任した人もいれば、行きたくないのに行かされた人もいる。スタート地点が違えば、動機付けも違ってくる。特に後者のグループは、無事任期を全うし、1日も早く帰国したいとひそかに願っているだけに、現地では「創造的」な仕事よりも本社の指示を徹底し、余分なリスクを取ろうとしない傾向が見られる。決して彼・彼女たちを批判しているわけではない。もし私が同じ立場に置かれたら、おそらく同じことをやっていただろう。

 たとえ自ら望んで海外に赴任した人であっても、思い切って活躍できるかというと、そう簡単ではない。本社から評価を受けるだけに、上位者・本社の指示を拒否することはできない。いずれも日本の終身雇用制度の必然的産物であり、異論を挟む余地は少ない(参考:失敗の責任を誰が取るのか、日本企業の落とし穴)。

● 騙される日本人経営者の実態

 海外といえば、日本人が騙されるのが日常茶飯事。日系企業の日本人幹部たちもよく現地人に騙される。いや、ちょっと語弊があるので、訂正させてもらおう。「騙す」とは、嘘を言って、本当でないことを本当であると思いこませることだ。実は、嘘でなくても、真実であっても、日本人は「騙される」ことがあるのだ。

 たとえば、+A、+B、-A、-Bという4つの事実があるとしよう。「+」はグッドニュース、「マイナス」はバッドニュース。某現地スタッフX氏は日本人上司のY氏に+Aと+Bの事実だけを伝え、-Aと-Bの事実を隠してしまう(その逆もあり得る)。架空の話をでっちあげたり、事実を捻じ曲げたりすると嘘つきになり、騙すことになるが、決してそうではない。このような「選択的な事実の伝達」は一番たちが悪い。不完全な情報、意図的に抽出された情報、隠ぺいされた情報で、誤った判断や意思決定をしてしまう上司は被害者である。

「情報の非対称性」とは、市場における各取引主体が保有する情報に差があるときの、その不均等な情報構造を指している。片方が事情をよく把握しており、ほぼ完全な情報をもっているのに、相手はそうではない。双方で情報の共有ができていない状態である。特に海外の経営現場では、言語の障害も加わると、日本人経営者は情報弱者の立場に陥りやすい。

 日本語が流暢で右腕とされる現地人部下が往々にして「情報の非対称性」を作り出す元凶になっているケースも少なくない。自分に都合の良い事実しか伝えない。調子の良いイエスマンに持ち上げられると、日本人はどんどん罠にはまっていくわけだ。

 さらに悪いことがある。某大手企業K社の海外現地法人では、ゴマすり上手な現地人スタッフC氏が異例の早さで出世し、副社長にまで昇進した。元上司の日本人トップA氏が数年の駐在を終え帰国すると本社役員に昇格。後任の日本人社長B氏が現地に赴任するや、C氏に不正行為の疑惑がかかっていることに気付く。さっそく是正や摘発に乗り出すと、B氏は本社役員のA氏に呼び出され、「お前は自分が日本人だからといって、現地人社員をいじめるな」と一喝される。現地人副社長のC氏が元上司のA氏に告げ口をしたのだ。笑うに笑えない話である。

「情報の非対称性」の被害者だったA氏が一転して加害者に回る。このように、事実上すでに現地人に乗っ取られ、不正が蔓延している日系企業海外拠点は少なくない。新聞に出ているようなニュースは、あくまでも氷山の一角に過ぎない。

「情報の非対称性」を避けるには、完全な情報の仕入れに努めなければならない。たとえば、情報の仕入れチャンネルを複数に確保すること。特に立場が相反する複数の当事者から情報を仕入れ、異なる声に耳を傾けること、そして裏付けを取り、情報を検証することが大切である。だが、そこまでできる人はほんの一握りに過ぎない。そのうえ冷静に物事を判断しようとすると、上記のB氏のように組織の上位者に叩かれることも少なくない。繰り返し言っているように、本来、議論の対象は「Who」ではなく、「What」でなければならないのであるが……。

● 「内弁慶」な日本企業が世界で大損しているワケ

 この人なら信用できる、信頼できる。というのは日本人の大きな弱点だ。人物というWhoを基準に物事を進めようとする。

「信用」や「信頼」には、前提がある。「たとえ裏切られても怖くない。すでに手を打ってある」という前提である。それゆえの余裕ある「信用」と「信頼」である。「裏切られたらどうするか」「裏切られないためにどうするか」。このような、「対人型」(Who)でなく、「対事型」(What)の命題提起である。

 日本人は、一般的に対人性善説なので、対事リスク管理をしようとしない。あるいは不得手だ。裏切られたら、相手が悪い、人騙しだと被害者正義論を担ぎ出す。しかし海外に出た途端、「現地人はやはり信用できない」と性悪説に180度の大回転をしたりする。ちょっと待てよ。海外で同胞を騙す悪い日本人もごまんといる。日本人や外国人の問題ではないはずだ。

 世の中は、十人十色。対人管理は大変なのだ。とても管理しきれない。だから、海外では一般的に、対人よりも対事管理で完結する。私が日々取り組んでいる企業経営上の「人事」も、「事を制して人を制す」である。

 日本国内にも同じことが言える。終身雇用の時代が終わろうとしているなか、限られた資源の配分をめぐって、日本人同士の戦いもすでに始まっている。

「たくさんの給料をもらって仕事をしない人」やら「老害」やら、いろんな批判が飛び交っている。とはいっても、年齢に関係なく頑張って大きな成果を出しているシニア社員も大勢いる。誰(Who)という対人指向の組織文化や構造から抜け出さないと、組織がまとまらなくなってしまう。

 日本型の組織では、良い意味での仲間意識から派生された同調圧力という副作用により、組織内部が剛性化している。一方、対外関係、特に競合関係においてはそう強くないのである。これは企業レベルにとどまらず、外交面においてもそうした傾向が見られる。日本の外交は弱い。利害関係の対立する外国に対しても性善説に立ち、「話せば分かる」と思い込んでいる。強硬な姿勢が取れないだけでなく、諸外国と堂々と論理的に議論すらできていないのが日本である。

 アメリカは多民族国家で、国内が多様性に富んでおり、またその多様性に対する包容力も大きい(内部柔軟性)。外部に対しては、自国の利益が侵害されようとした時点で、即時に反応しきつく当たることが多い(外部剛性)。

 言ってみれば、アメリカの「外剛内柔」に対して、日本は「外柔内剛」になっている。故に国際社会では、日本が一番いじめられやすいのである。国家も企業も、内弁慶な日本型の組織は世界で大損している。

<次回>

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