人事労務と経営(3)~終身雇用制度は歴史の瞬間的出来事である

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 雇用制度の基本的な捉え方として、どう考えるべきか。日本であっても、すでに終身雇用制度が終焉を迎えようとしている。終身雇用制度とは長い歴史のなかの瞬間的な出来事として、経済学と社会科学のベクトルの偶然的一致に過ぎない。故に、終身雇用制度はむしろ、特例的に考えるべきだろう。

 世界を見ても、戦後の日本の終身雇用制度には普遍性がなく、特例的な存在であることが分かる。にもかかわらず、多くの日本企業の海外拠点においても、従来の日本式の終身雇用制度モデルを持ち込んで利用している。言わせてもらうと、自殺行為同然だ。

 論点を整理すると、海外拠点で終身雇用をやるべきか、それができるかという2点に尽きる。

 まずは、戦後日本社会のような、経済学モデルと社会科学デモるの偶然的一致があるかないかという検証が必要だ。このような検証を行っているのかというと、ほとんどの日本(日系)企業はやっていない。たとえ、その検証で「イエス」の答えが出たとしても、次に問われるのはこのようなメカニズムを担保する労働法制度や雇用慣習が現地に定着しているかどうかである。

 1つ、肝心なことは企業の人事権問題だ。日本国内の終身雇用制度は、正社員の解雇が非常に難しい一方、企業に広範な人事権が認められている。たとえば、賃金や等級、職位の調整をはじめ、なによりも転勤を命ずる権利(人事権)が認められている。さて、海外ではこのような人事権は認めらているのか。言い換えれば、企業の一方的な人事辞令発令権といってもいいだろう。

 人事辞令という概念が存在している外国というのは、どこなのか。探してみてくださいといわれても、なかなか見つからない。繰り返しているように、日本の雇用モデルは世界で見ると、異例であり、「非常識」なのである。

 中国やベトナムをはじめとするアジアだけでなく、欧米諸国を見ても、一部地域の国有企業または準国有企業を除いて、雇用制度の基盤の大半は経済学モデルに支えられている。言ってみれば、労働市場の需要と供給の関係に基づいている。社会科学モデルとして、労働者の生涯と企業経営の連結ならびに運命共同体の構成を担保する要素は何もない。

 その担保とは、労働者の早期退職時の不利益がまず挙げられる。日本の場合、国家を挙げての終身雇用であるが故に、早期退職者には極めて不利な転職を強いられる。元在職企業においては「後払い」になっている生涯支払として受けるべき将来的利益を喪失するだけでなく、さらに転職先への「転入」による先行積み上げ利益の喪失という過去と将来における二重の不利益が待っているのだ。このメカニズムは、終身雇用制度の実効性という意味で、企業にとって最大の「社会制度」的な担保となっている。

 しかし、海外を見渡してもこの担保システムは皆無である。どんな国においても、従業員がいつ会社を辞めても、得をしても損は絶対にしないのだ。というのも、ほとんどの転職はもっと高い賃金を提供される転職先への「勝ち逃げ」であるからだ。日系企業で一生働いても、潤沢な退職金どころか、ほとんどの場合は1銭も退職金をもらえないわけだ。

 この通り、すべて経済学モデル、合理的経済人(自己利益を合理的に計算して追求する人間)モデルに基づいている。

 さらに最悪の話は居残り組である。それでも退職しない人がいる。彼たちの一部、あるいはほとんどが、労働市場で転職できない人たちなのである。技能的にも経歴的にも年齢的にも転職できないとなれば、在職企業にぶら下がる。そこで日系企業のいわゆる似非終身雇用制度ほど都合のいいものはない。日系企業は雇用安定のほか、定期昇給昇格等を中心に運用していると、雇用の流動性が弱まり、代謝機能が落ちる。固定の組織と固定の職位が安住の場となり、仕事がマンネリになりやすく、改善や改革の精神も失われる。

 彼たちだって、立派な合理的経済人である。大過さえなければ、解雇されることはないから、日系企業のベースアップをエンジョイしながら、悠々自適なプレ定年を過ごすのである。善悪抜きに語れば、一連の現象はすべて経済学モデルに基づいている。であれば、企業も基本的に経済モデルに基づき、雇用制度を考えるべきではないだろうか。

 最後に、もう1点。そもそも、海外の日系企業は終身雇用をコミットメントできるのか、つまり日本企業の海外進出は当該国に根を下ろし、絶対に撤退しないという約束はできるのかということだ。それができなければ、終身雇用などは机上の空論であり、真っ赤な嘘になるわけだ。資本主義というのは常に新たなフロンティアを求めて、西へ西へと移動しているのである。

 結果的にこの通り、経済学モデルに立脚して雇用制度を考えるべきだという結論にたどり着く。

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