心の琴線に触れる、急がないマレー半島南下の旅路

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 国境の街ランタウ・パンジャンを後にしてマレー半島を一路南下する。クアラルンプールまでは500km弱の距離だが、一般道路も入って7時間のドライブとなる。あまりにも長いので、途中で1泊する。

 ランタウ・パンジャンからは、右手のタイ国境線がくねくねとして蛇行する。日本は島国だから陸続きの国境を意識させる要素は皆無だが、私が住むマレーシアはとりわけ半島のほうは北のタイと南のシンガポールという2つの国に隣接する。こうして国境に沿って車を走らせていると不思議な緊張感に包まれる。世界はボーダーレスではないし、なってもいけない、と私は思う。

 ジェリ(Jeli)という小さな街でトイレ休憩したら、左折する。本格的な半島南下がこれで始まる。地図上で見た山間部の道路は思ったよりも整備されていて概ね快適な走行だ。いや、むしろ高速道路のあの無機質な殺伐とした風景とは打って変わって長閑な田園風景が広がり、胸がときめく。所々ヨーロッパ的ですらあるが故に、車内に流れる交響楽が風景に溶け込んで渾然一体化する。

 心の琴線に触れる。旅がその瞬間を多く提供してくれるから魅力的だ。飛行機に乗って地球の裏側に出かけるのもいいが、身近な場所だけでも物語がいっぱい詰まっている。コロナがなければ、私はこの田園風景を楽しむことはなかっただろう。幸せって、そういった解釈から自然に生まれるものだ。

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