ゴン太だ。ゴン太が家に戻ってきたのだ。連続2日、ゴン太の毛と同じ茶色をした、1匹の蝶が青空から降りてきて、ゆっくりと我が家に舞い込む。
ゴン太のよくいた場所を転々と飛び回り、何か考えているように止まってはまた飛び立つ。そしてなんと、ハチ、ハナとマルの3匹の兄弟に軽くタッチしながら、挨拶する。
1階にしばらくいると、階段にこすりつけるように触れながら、一段一段と飛ぶよりも、歩くように2階へと登っていくのだ。寝室に入り、ゴン太のよく寝ていた場所や私のベッドサイドにまた何か考え込むように休んではまた飛び立つ。一度ベランダに出るも、未練が残るようにまた室内に舞い戻る。
もっとも不思議なことが起こった。茶色い蝶は、ゴン太の骨壺が安置されているテーブルの上方になんと1時間以上もじーっと動こうとしないのだ。ゴン太だ。間違いない。彼は戻ってきたのだ。涙が止まらなくなる。
ゴン太が亡くなってから、妻はよく庭に飛ぶ蝶々を眺めながら、「ゴン太は蝶々になって家に帰ってきたのだ」と言い続けた。この度の蝶の入室と屋内周遊を目撃しながら、妻も私もメイドも驚きを禁じ得ず、動転さえした。
蝶は仏教では、極楽浄土に魂を運んでくれる神聖な生き物とされ、「魂」の化身であると共に、再生や復活(輪廻転生)の象徴にもなっている。蝶が神秘的で「不死・不滅」のシンボルだったことから、昔の武士に好まれたという。
「不死、不滅、復活」の考え方は、他の文明圏でも共通している。ギリシア語の蝶、プシュケは、「魂」と「蝶」というの2つの意味を持ち、蝶は美しさと精神性を兼ね備えた存在なのだ。古代ギリシアでは蝶は「霊魂、不死」とされ、キリスト教では「復活」を表す。
スピリチュアルとは、目には見えない、科学では証明できない世界のことを言う。見えないものは、存在することも、存在しないことも証明されない。魂と魂の繋がりや霊的なもの、運命、偶然の出来事などを天からのメッセージとして信じるしかない。
今宵もマーラー2番終楽章のフィナーレに耳を傾けながら、私はゴン太に会いに行く――。
死は次なる生への旅立ち
蘇るために死ぬのです
お前は蘇る
またたく間に再生せよ
お前の心の鼓動がやんだ
ああ 神のもとへ
最期の鼓動がお前を神のもとへと運ぶのだ