「制度一式どうぞ」、人事コンサル成果物流用の危害

 当社のコンサルティングで作った人事制度を、顧客企業がグループ他社に流し、グループ他社もその一式を(若干の修正を加えて)使う事案が最近、散見される。

 黙って使っていれば、もちろん当社は知り得ないのだが、そのグループ他社と当社は、契約を結んでいないので、問題があっても聞くことができない。自分の理解と判断で進めるしかない、いよいよ問題が大きなって収拾がつかなくなると、聞いてくるわけだ。

 知財権の問題は別として、勝手に成果物を流用する危害をやはり知っていただきたい。

 まず、人事制度は一社一社異なる状況や事情があって、それに合わせてオーダーメイド的に作っている。いくらグループ企業といっても、別会社である以上、組織や業務内容、人員構成が様々であって、A社でうまく行った制度だからといってB社でもうまくいくとは限らない。ホワイトカラーとブルーカラーの差異があると思えば、同じブルーカラーでも差異が大きく、出稼ぎ者、地元者、同郷者、縁故・紹介入社者、高卒以外(大卒)の従業員の多寡・比率で画一的なやり方で通用しない場面が非常に多い。

 次に、制度立ち上げ、実施、運用上の問題。制度自体は単なるペーパー上の文字に過ぎず、その存在意義や背後に隠れた主旨、運用方法(していいこと、してダメなこと、しなくてはいけないこと)、問題になったときの対応など、設計者に確認しなければならないことが何かといろいろある。制度は運用してこそ意味のある制度なのだから、せいぜい「通信教育」形式の遠隔指導・助言が必要だろう。

 最後に、一番大きい理由は、従業員とのコミュニケーション。「はい、この制度を明日から実施する」。日本でやっていいことは、必ずしも中国で通用するとは限らない。一社の人事制度を一年もかけて作り上げる。制度なら私の手元にいくらでもある。一週間あれば、新制度実施も不可能ではない。時間をかけてやっているのは、なぜこのような制度が必要なのかを従業員に悟ってもらうためだ。制度とは、会社一方的な都合や利益のためだけではない。従業員にとっての利益とは何か。会社と従業員双方の利益の最大化、その落とし所はどこにあるのか、じっくり切磋琢磨し、議論を重ねる必要がある。この過程を省略すると、ハードランディングの危険が当然膨らむのである。

 いったん、実施してしまった制度を撤回することは、会社やトップの威信が失墜するので、そう簡単にできない。手直ししようとも、労使の対立が生じた以上、これもなかなか簡単にできない(もちろん、やりかたはある)。そうならないように、やはり早期段階に相談してほしい。

 グループ会社間の成果物流用問題だけではない。同じ会社の中でも、問題を起こしやすい。私のセミナーやスポット相談だけを受けて、自力で制度構築に乗り出す会社もいる。中に成功する会社もいれば、うまくいかない会社もいる。これも、まさに各社の状況や担当者の理解の差で結果が異なる。ここ数年、毎回毎回私のセミナー会場に足を運び、現に制度改革に成功している事例もある。ほかに、私が知らされていないだけで成功している会社がいるかもしれない。

 何でも制度コンサルを依頼してくれというわけではない。現に、物理的にも件数の制限があって全部受けられるわけでもない。何らかの良い形で、良い結果を出したい。できるだけ多くの会社でよい人事制度が作られ、良い形で運営してほしい。私も一生懸命に方法を考える。

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