女性の口説き方と組織の変え方

 某顧客企業の総経理が「行動心理学」の勉強に取り組んでいることを見て、私もこの勉強を始めた。

 人事制度の構築コンサルティングでは、制度そのものの構築よりも、制度の実効性に力点を置いている。いくら良い制度でも、実施して効果が薄い、あるいは、効果がないということであれば、意味がない。さらにいうと、制度それ自体が目的ではない。あくまでも一手段に過ぎない。

 制度を実施して、良い効果を出すことに影響を与える要素は、制度そのもの、顧客企業の企業文化、戦略、組織、管理スタイル、従業員の動機付けと行動など多方面に渡る。だから、コンサルタントとしては、人事制度云々語るのがあくまでも一要素に過ぎず、広域的に全要素の最適化を実現してこその人事改革である、このような認識をしっかり持たなければならない。

 すると、労働法令や人事制度といった基本面のノウハウではとても十分とはいえない。数年前から取り組んで来た組織論について、最近史学という時間軸を意識して、太平洋戦争の戦史を勉強しながら、戦時の日本軍の組織から昨今グローバル時代の日本企業の組織まで全体的な俯瞰をもって、日本式組織のポイント抽出に取り組んでいる。これではまだ足りない。もう一本の軸――比較文化論・比較社会論も取り入れないと(これはすでに取り組んでいる)、中国ビジネス社会における日本企業の経営に満足できる回答を出せないだろう。

 まだまだある。組織の構成員である従業員の動機付けや行動様式となると、新たに「行動心理学」の勉強も欠かせない。これまで、現場での実践に基づくノウハウの累積はあるのだが、正直系統的な理論学習は初めてだ。とてもわくわくしている。

 先日、ある顧客企業の責任者と雑談して、「行動心理学」の話が出ると、「あっ、立花さん、女性の口説き方を勉強しているの」と冗談で言われた。確かに、「行動心理学」は広範な実用面をもっている。異性の心を読むというのも、この学問の射程内にある。これは事実である。

 一人の女性を口説くことと一つの組織を変えること、どっちが難しいだろうか。意味のない質問をやめよう。

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