黒、グレー、白、真っ白、それから企業の経営コスト

 某弁護士事務所のZ代表弁護士の労働法セミナーに出席させてもらった。あまりでしゃばって質問しないことを決め込んでいたが、あまりにも根本的なところのご発言に問題を感じ、手を上げずにいられなくなった。

 一つ、会社制度は労働組合の同意(合意)があってはじめて採択できるとおっしゃられる。もうひとつ、法定祝日の残業代は、通常賃金を支払った上でなお3倍の割増ペイ(都合4倍)を支払わなければならないとおっしゃられる。

 もちろん、このZ弁護士が言っている見解・提案は合法で、残業代を4倍だろうと5倍だろうと、いくら積んでも違法にならない。規制制度は労働者がうんと頭を縦に振らない限り、制定できないというのも、民主に民主を重ねて大いに結構だ。むしろ、その方が安全だ。弁護士にとって、この助言に何らリスクもない。企業にもリスクがない。その方が良いに決まっている。原資が無尽蔵にあるのなら、その方が最善である。日々私が企業に提案していることより、はるかに簡単だ。

 ただお金をばら撒けば済むだけのことなら、何のために顧客企業が弁護士やコンサルタントにフィーを払っているのだろうか。今日のセミナーの出席者を見渡して、中小企業の経営者や管理職が多いようだ。辛うじて企業が利益をねん出して経営していくことは容易ではない。助言立場のプロフェッショナルとしての有り方を再考する余地はないものか。

 「今言っているところは、グレーですか、黒ですか」。参加者が何度もZ弁護士に問い詰めているが、直接な回答はない。回答すれば良いと思う――。「弁護士が言っているのが白だ。いや、白よりも、真っ白だ。グレーにも、黒にも興味がない」

 白や真っ白は大変素晴らしい。けれど、コストがかかって会社が潰れちゃう。どうすれば良いのか。いや、弁護士は、正義の味方だから、あくまでも真っ白じゃなきゃダメだ。それも結構だ。だったら、グレーや黒に固執する顧客に顧問を断ったらよい。

 真っ白を追求し、法の完全純潔を追求する理念は素晴らしい。私も理念をもっている。理念に合わない顧客企業に、「No」と言って断っている。黒やグレーを拒否する姿勢は誰でもとれるが、そこで、いかにそれらを白の空間に誘導するか。そこで弁護士の真価が問われるのではないだろうか。

 質問を回避しつつ、その結末、「この問題について、あなた(立花)と私的な場で議論することにしましょうよ」と蓋をされてしまう。中国では意外にもこのような弁護士が多い。良き弁護士とは何か?法律をもっともリスクのないように解釈するという意味では、ある種良き弁護士といえるだろう。一方、企業にとって良き助言者であるか否かは、各社が各自の価値観で判断するだろう。

 楽しみにしていた、セミナー後の懇親会は、直前でキャンセルされた。残念だ。もっと、Z弁護士と議論をしたかった・・・。あっ、そうだ。あと、法律の重要条文くらいはちゃんと熟読してほしい。できれば暗記してほしい。○○法×条をいうと、「今日は、法律は手元に置いていないので、わからないが」というのは、ちょっとどうかな・・・

 少し前、別のセミナーで別の某弁護士事務所のY弁護士は質問を受けて、「すみません。ご提起された質問について、裏付けとなる条文を調べる必要があります。合わせてその辺の判例も調べた上で、後日改めてご回答します」と、とても誠意が見られるし、実に人格者である。見習ってほしい。

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