LCCエア・アジア搭乗雑記(2)~Simple Flyer

<前回>

83371_1エア・アジアAK1016便機内、クアラルンプール発広州行き

 LCC(Low-Cost Carrier)、通常「格安航空会社」と訳されているのだが、その原文も訳文も必ずしも適切とは思えない。

 まず、「格安航空会社」という訳文では、航空会社側の低運営コストに、消費者側の低購入コストを置き換えているのだが、「低運営コスト」は必ずしもイコール「低購入コスト」ではないし、「高運営コスト」でも大きなディスカウントさえすれば、「低購入コスト」になるわけだ。

 次に、原文(英文)の「ローコスト」も誤解を招きやすい。運航コストを削ってのローコストでは航空機の安全性に影響はないかという消費者側の懸念も生まれるだろう。

83371_283371b_2駐機場への長い道のりをてくてくと歩いて搭乗

 LCC系航空会社の正体は、何だろうか。低コストで飛んでいるから、危ないじゃないかという懸念だが、それは心配ご無用だろう。航空飛行の法定安全基準は、どの航空会社にも同じものであって、LCCだからといって、機体点検の項目を減らせるわけではない。逆にLCC系の航空会社は、いったん事故でも起こしてしまったら、破滅的な結果にもなりかねないので、とても慎重に整備・点検作業に取り組んでいるのではないだろうか。

 LCCは、法定安全運航に関わるもの以外のコストを思い切ってカットして、総合低コストを実現しているのである。

 地上オペに目を向けると、例えばクアラルンプール国際空港では、一般ターミナルではなく、別途安価な簡易ターミナル(LCCT)を使用している。洗練されたデザインのエアポートにほど遠く、まるで体育館のような館内でチェックインを行っている。スタッフ人数も少ないので、度々長蛇の列ができたりする。このため、事前ウェブサイト・チェックインが推奨されている。

 待たずにもう少しましな接客を望むのなら、エア・アジアの場合、追加料金で「レッドカーペット」サービスを購入して専用カウンターでチェックインすることもできる。

83371_383371b_3通常より短い荷物のタッグと薄いレシートのような搭乗券

 気がつけば、搭乗券もレシートみたいな薄い紙だったり、荷物のタッグも通常の航空会社に比べて半分ほど短くなっていたり、乗客総人数分で考えると紙の節約だけでも大きなコストセーブにつながる。環境保全にも大きく寄与していることを考えると、高く評価すべきだろう。

 預ける手荷物も有料だ。15キロや20キロ、25キロ・・・キロ数に応じて料金が決まっている。私は初めてLCCを利用するので、とりあえず無難だろうと、一般航空会社の常識である20キロ分の枠を購入した。重量オーバーにならないように、事前に荷物の内容物を入念に点検し、最小限の荷づくりをした。いざ空港で計ってみると、15キロ未満だった。損をした思いで、次回は15キロ枠しか購入しないことにした。ほかの乗客もおそらく同じなので、全体的に飛行機の搭載重量が減れば、ジェット燃料の節約だけでなく、温暖化の元凶となるCO2排出量の抑制にも寄与する。

 いざ搭乗となると、ターミナルにボーディング・ブリッジもなければ、輸送バスもない。乗客がてくてくと駐機場の歩行者通路を歩いて、飛行機に搭乗するわけだ。ボーディング・ブリッジやバスのオペレーションに必要な電力、ガソリン、人的資源も不要となる。

83371_483371b_4機内食もドリンクもすべて有料

 飛行機といえば常識となる機内食は、有料でしかも予約購入割引制度となっている(水やドリンク類もすべて有料)。食べたい人だけがお金を払って食べる。いつも飛行機に乗ると、無料供給の機内食が黙ってサーブされるので、腹が減らなくてもついつい食べてしまう。ドリンクも飲み放題なので、ビールやらワインやら過剰なくらいに飲み、3万フィートの高空で酔いが早くまわりあとから気分が悪くなったりする。エア・アジアに乗っていると、生命維持に必要な飲食だけで済む。気分がすっきり。何よりも、水分を取り過ぎての足のむくみがまったくない。

 航空機よりもバス感覚だった。

 航空機が贅沢な乗り物だった時代がすでに過去の歴史となった。贅沢な乗り物だから、贅沢な旅にしようと、機内食やドリンクサービスなど付帯サービスがどんどん追加されたのだろう。このような付帯サービスには当然コストがかかる。LCCは、このような付帯サービスを最小限に抑え、総合コストの削減を実現したのである。その意味でいうと、LCCは付帯コスト削減のビジネスモデルに属し、純粋な輸送機能の提供者であって、「Simple Flyer」と言ったほうが適切だろう。

 LCCの初搭乗で、私は大ファンになってしまった。今回は、香港からペナンへ、そして帰りはクアラルンプールから広州までエア・アジアを利用したが、上海にもぜひ一日も早く乗り入れてほしいと願ってやまない。

<終わり>