失われる田舎の静寂、センチメンタルな日々

 木々の間を吹き抜ける風、鳥たちのさえずり、花々の笑顔、静けさの中にひとしずく木漏れ日。山の稜線に広がる贅沢な青、空の青さに溶け込み、心を包み込む風景。自然に囲まれた田舎町スレンバンは、喧騒から逃れたい私にとって、理想的な隠れ家だった。クアラルンプールからの距離がもたらす、適度な田舎感。そのバランスが心地よかった。

 しかし、ここ1年ほどで、スレンバンに異変が起きた。新しい商業施設が次々と立ち上がり、ユニクロまでが出店すると工事が着々と進む。不動産相場は急上昇し、街は急速に膨らんでいる。昔はスムーズに進んでいた道路も、今や平日でも渋滞で埋め尽くされるようになった。都市化ほど恐ろしいものはない。

 クアラルンプールからたった60キロ。私がこの田舎町を選んだ理由は、その距離にあった。都会の近くにありながら、自然の静けさが保たれていると信じていた。それが、もう過去の話になりつつある。

 緑豊かなこの場所に住み着いたのは、静けさと安らぎを求めたからだ。しかし、都市化の波が押し寄せる中で、私の心にはぽっかりと穴が開いてしまったような気がする。便利さや経済的な発展は、確かに多くの人に喜びをもたらすものかもしれない。だが、私にとっては、それと引き換えに失われていくものの方が大きい。

 自然が、静寂が、そしてその中にある小さな幸福が、少しずつ消えていく。スレンバンの都市化とともに、私は何か大切なものを手放しているような感覚に囚われている。

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