AI時代(5)~資本主義も大改造、中国型元祖的優位性の顕在化

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● AI時代における資本主義の大改造

 AI社会は政治制度のみならず、経済制度としての資本主義をも大改造へと導く。従来の資本主義は、市場における自由競争と資本の自己増殖を原理とし、個人や企業が利潤を追求するプロセスを通じて社会全体の効率性を高める仕組みであった。アダム・スミス以来の「見えざる手」の理念は、市場競争が最終的に社会的調和を生み出すという信念の上に成り立っていた。

 しかし、AIと自動化が普及し、生産性の限界が技術的に飛躍する時代においては、自由競争そのものが制度疲労を起こす。AIは市場を通さずとも膨大なデータを解析し、最適解を即時に導き出すことが可能である。従来の価格競争や需給調整という市場メカニズムは、AIによる直接的かつリアルタイムの最適化に代替される。すなわち、「市場の調整機能」がAIに吸収されることで、自由市場資本主義の根拠は大きく揺らぐのである。

 結果として、従来の自由市場資本主義は「AI駆動型資本主義」へと変貌する。この体制においては、市場の価格シグナルがもはや唯一の調整手段ではなく、AIのデータ処理とシミュレーションによって経済秩序が合理的に設計される。

● 中国型国家資本主義との親和性

 このAI駆動型資本主義は、中国の国家資本主義と一定の親和性を持つ。国家が経済の方向性を規定し、資源配分を調整する体制は、AIによる合理的計算と結合することで、かつての計画経済と市場経済の双方を超克する新しい枠組みとなる。

 ここで重要なのは、旧ソ連型の硬直した中央計画経済ではなく、AIがもたらす柔軟かつ動的な最適化である。生産・流通・消費の各段階がビッグデータで可視化され、資源配分はリアルタイムに修正される。市場は消滅しないが、その役割は「偶然性の調整」から「AI合理性の補助装置」へと縮小する。

 利潤の追求は依然として制度の根幹に残る。しかし、それはAIによって合理化された配分ルールの中に組み込まれ、従来の野放図な資本蓄積は制限される。資本の無秩序な自己増殖は、社会全体の安定性を脅かす要因として規律され、AIと国家による調整を通じて「秩序化された利潤追求」へと修正される。

 この仕組みは、単に市場競争を否定するものではなく、資本主義を「AI的に合理化された資本主義」へと改造するものである。すなわち、資本主義の根本原理は残りつつも、その作用はAIの合理性と社会安定性の要請に従属させられる。

 この経済秩序の変化は、マルクス主義的視点から見れば極めて興味深い。マルクスが批判した「資本による労働の搾取」や「労働疎外」は、AIによって部分的に克服される。労働は生存のための必然から解放され、自己実現や文化的営みとして残存するにすぎない。T1によって最低限の生活は保障されるが、上昇を望む者はT2やT3を通じて役割や成果を生み出さなければならない。

 以上を総合すれば、AI時代に現れるのは、西洋的自由市場資本主義でも旧来型社会主義でもない、中国型国家資本主義に似た「AI駆動による合理型資本主義」である。この制度は、個人の自由と市場の偶然性よりも、社会全体の安定性と効率性を優先する。

 言い換えれば、資本主義は「市場の自由」から「AI合理性」へと軸足を移す。そこでは、経済はもはや市場の自律的秩序ではなく、AIと国家によって不断に最適化される社会的装置として機能する。

● 中国モデル、二重収斂としての文明史的意義

 AI社会における変革は、単なる政治改革や経済調整にとどまらない。政治秩序は、民主主義が退場し、AI合理性に基づく合理的独裁へと収斂する。経済秩序は、自由市場資本主義が制度疲労を起こし、AI駆動の合理型資本主義へと収斂する。

 この二重収斂によって、AI社会は「政治=合理的独裁」「経済=合理型資本主義」という統合的枠組みを形成する。これは単なる一国の特殊性ではなく、文明史的必然の帰結である。

 中国モデルがその先行形態を体現しているが、最終的には人類全体がこの二重収斂に包摂されるであろう。近代の自由民主主義と自由市場資本主義は、AI時代において同時にオールドファッション化し、合理的独裁と合理型資本主義へと収束する。

● 制度実験の先行性と元祖的優位性

 AI時代の資本主義・民主主義の変容が中国型モデルに収斂するならば、中国が「元祖」として持つ優位性がどこにあるかを考える必要がある。

 まず、中国はすでに「自由市場資本主義」と「計画経済」の双方を組み合わせた国家資本主義を長年運用してきた。その実験場としての経験値は、他国に比べて圧倒的に豊富である。特に社会信用システムやAI監視体制の導入は、AI駆動型統治の「先行モデル」として位置づけられる。

 次に、中国共産党政権は、選挙による正統性を持たず、成果による正統性(パフォーマンス・レジティマシー)を基盤に統治を維持してきた。このモデルはAI社会において極めて適合的であり、欧米民主主義が「選挙的正統性」の形骸化に悩む一方で、中国はすでに「成果による支配」の土台を完成させている。

 さらに、中国の「社会主義市場経済」や「中国特色」論は、理論的には一貫性を欠くと批判されてきたが、むしろその柔軟性こそがAI時代には強みとなる。AI駆動による合理的独裁や合理型資本主義を「特殊性」として吸収する準備が整っている。西洋の自由主義のように「普遍主義」を掲げる必要がないため、制度の転換をスムーズに行える。

 最終的に、資本主義も民主主義もAI合理型へと変貌するとすれば、中国は「元祖」としての経験値を背景に先行優位を握るだろう。しかしそれは「中国的特殊性」としての優位ではなく、歴史的必然に最初に適応した国としての優位である。つまり中国モデルは普遍性を主張できないが、他国に先駆けて「時代の試作機」を完成させた点において、文明史的意義を持つのである。

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