英語の話

 英語使用の日々である。

 ロイター通信社を辞めて以来、13年間中国語と日本語の世界にどっぷり浸かって、英語は海外旅行以外にほとんど使う機会がない。いざいまマレーシアで生活してみると、とっさに単語や言い回しが出てこなかったりする。

 妻が本格的に英語を勉強しようと、今日は体験クラスに出た。私は車の運転手を務めながらレッスンを見学した。華人系のマレーシア人女性が先生で、きれいなクイーンズ・イングリッシュで分かりやすく教えてくれる。

 中国ビジネス関係の日本人、あるいは日系企業勤めの中国人で、中国語や日本語が達者でも、英語が上手な人が非常に少ない。というよりも、外国語勉強の時間の大部分を中国語や日本語に費やしてしまうからだ。欲張って何ヶ国語も身につけたいだろうが、何せ時間の制約がある。ということは分かるのだが、やはり英語は習得したほうがいい。

 中国人向けの研修会では、私はいつも受講者の中国人たちに、「英語もしっかり勉強しなさい」と勧める。英語は外国語として、プレミアム的な存在では決してない。この地球上で生きていくために欠かせないサバイバルのツールなのだ。英語ができるのとできないのと、世界の広さが大きく変わってくる。

 以前ある日本人医師から聞いたことだが、日本人医師の多くは英語の文献が読めないのが一番の弱点だ。他国の医療技術の進歩や臨床事例のアップデートが遅れるからだ。

 日本語や中国語と言う漢字文化は、基本的に象形文字の識別で、たとえば朝刊を広げて読み込まなくても、眺めるだけで本日のヘッドライン、ホットトピックスが一通り頭に叩き込まれる。けれど、英語はなかなかそうはいかない。

 日本人で英語が上達しにくい大きな原因は、翻訳しているからだ。文法という枠組みをまず覚え、次は単語を覚え、枠組みに単語を嵌めこんでいくと、ああ、疲れる。これは日本の外国語教育の問題だ。

 かつてある英語が欧米人並み流暢な友人(日本人)に、どうやって英語を勉強したかと聞いたら、こう教えてくれた。「音楽と同じだ、リズムから入るんだよ」。最近流行りの「聞き流す英語学習法」はおそらく、その「音楽原理」に則っているのではないかと私は思う。

 マレーシアの華人で、華語(中国語)がしゃべれても読み書きできない人がたくさんいる。彼らもおそらく「音楽的学習法」で中国語を覚えたのだろう。系統的な文法スキルがなく、ピンインなんかも知らないし、タイプも打てないわけだ。

 もうひとつ、一番大切なことだが、それが崖ぷっちに追いやられているどうかだ。生きるか死ぬかという境地に追いやられてみると、言葉なんてあっという間に覚えてしまうかもしれない。

 自分にも英語力の向上で段階的な目標を立ててしっかり頑張っていきたい。私の世界では、一番難しいのはやはり英語の法律原文、そして契約書などの法的文書、最後にロジックを組み立てて、論理的な議論、弁論になる。頑張ろう!