水野真澄氏と違う目線

 友人の水野真澄氏の日本企業の中国撤退についての発言に対する異論を提示させてもらいたい。冒頭申し上げたいことは、決して氏の観点を否定するものではない。氏の論点は全うなもので、まさに正論である。私はただその正論からちょっとずれたところから目線を置いて、異なる観点を述べるまでである。

 まず、「撤退はかならずできる」というのは、真実であろう。問題は、撤退コストはどのくらいかかるかである。もちろん、残余金も返金できるというのも法に則って正論である。これも、撤退コストと相殺してあとどのくらい残るかによる。コンプライアンス的には、上記論議は単なる経営学的数字の話であって、法の厳粛性に照らして到底足元にも及ばぬものであろう。

 次に、夜逃げの話について、「専門家の誇張、商売獲得目当て」という論点だが、夜逃げを企業がした場合、いわゆる専門家がどこで稼げるか、ぜひ、知りたいものだ。企業が夜逃げしてしまえば、そもそも稼げなくなるのではないかと(夜逃げ専門コンサルなら話は別だが、以前「夜逃げ屋本舗」というような映画に出てくるようなシーンだ)。どちらかというと、夜逃げせず、きちんと専門家に頼んで、清算撤退したほうがコンサル業者の稼ぎになるのではないだろうか。

 私は決して夜逃げを推奨しているわけではない。ちなみに、弊社は一切撤退案件を受けていないが、中国の法制度と現実では、夜逃げしてもどのような罰則で罰せられるのかぜひ事例を示してもらいたい。夜逃げをしても、香港あたりで再度別名の法人を立ち上げて中国に進出する事例はないものか。正直者がバカを見るというのは今の中国ではないだろうか。

 企業の品格は法と同じレベルで語るものではない。私が日常的に担当している大手企業では破産などの事例は皆無といっていいだろうが、中小や零細企業の場合、経営体力が不足して、それこそ破産も一つの選択肢ではないだろうか。

 「撤退はつらい作業で、企業の人格品位を求めて」、紳士的に最後までやるのは一つの選択ではあろう。これにまったく異存はない。苦しくても、襟元を正してやっても、コストがかかることは何ら変わりもない。まさにこれは価値観の問題であろう。本文を書いた友人の水野氏の価値観を否定するつもりはまったくない。価値観の多様性を示したいだけである。

 ついでに氏は財務面の話をしているだけであるが、清算撤退に関して、労働者のリストラにどれだけのコストがかかるかご存じだろうか。それを現実問題として聞きたいくらいだ。一度合同セミナーで本テーマを取り上げると面白いかもしれない。