アイスランド(4)~生を謳歌する死のコンビ、極北の食

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 北欧に美食なし。通説もあるが、自分の体験もそうだった。以前、ノルウェーとフィンランド旅行のとき、美食にありついた覚えはまったくなかった。

 この固定概念を打破してくれたのは、アイスランド料理であった。今回の旅行ではとにかく土地固有の食材と調理法にこだわろうと決めた。アイスランド料理、そんなの聞いたことすらない。存在しているのだろうか。

 レイキャヴィークの閑静な住宅街の一角に、アイスランドの伝統料理を出してくれる店があった――「3 Frakkar」。

 まず、前菜にはアイスランド名物のハウカットルを注文。サメ肉を常温発酵させたものだ。あの有名な猛臭料理。いやむしろ臭いという次元を超えている。サメの体内に蓄積された尿素がアンモニアに変わるが、あえてこの臭いを抜かずにそのまま数か月発酵させるという奇抜な製作法である。

 9世紀ごろアイスランドに移住したバイキングの食べものだった。アンモニアの効用で、とにかく肉が腐敗しない。どんなところへもっていても腐敗せず、保存食として重宝されるのだ。過酷な環境を生き抜くための知恵が凝縮される料理は貫禄が漂う。臭いどころか、私は病みつきになることを恐れ始めた。

 さらにこれに合うのがやはりあの地獄のアイスランド地酒、ブレニヴィン(Brenivin)。ブレニヴィンの英語名は「Black Death(黒死)」という。極寒地帯で死神と戦う身体を暖める強烈な酒だけに、死を意識せずにいられない。

 ハウカットルの強烈なアンモニア臭が、ブレニヴィンによって引火され、身体中に延焼が始まるのである。これはまさに、「死のコンビ」。いや、死から生を勝ち取った強き力を謳歌する喜びのメロディなのだ。

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