品川駅前の一等地、場末感満点の飲食店が存在するワケ

 宿泊中の京急EXホテル品川の(第一京浜を挟んで)向かい側、品川駅高輪口から徒歩1分の一等地に、京急第10ビルという場末感漂う寂れたビルがある。

 学会の懇親会は立食で、基本的に社交の場であり食に専念することはできない。もちろん、出された料理も「それ用」なのである。食重視の私は悪い癖から抜け出せずにまたまた、途中離脱の「ハシゴ」となった。そこでたどり着いたのは、このビルの地下階。飲食店がひしめき合いながらも、多くの店が閉鎖されており、より一層場末感が増すばかりである。

 そのなかでも一際目立ち、色鮮やかに見えたのは、「石志水産」。早速暖簾をくぐってみる。食材はよろしく、値段も安い。素晴らしい居酒屋さんではないか。これからも常宿のホテルから通いたいところだが、ただその異様な場末感に引っ掛かって何だか不安な気持ちが消えない。

 調べると案の定、「問題」が浮上した。立ち退き訴訟が絡んでいるビルである。所有者である京急がテナントを相手取り、立て続けに明け渡し訴訟を東京地方裁判所に申し立てていたという。京急が取り組んでいる、泉岳寺駅~新馬場駅間の交差化・再開発計画の下で、ビルの解体が予定され、テナントは退去を求められていた。

 京急本線ホームの地上化(JRと同一高度にする)に伴い、大がかりな工事が必要になる。駅の真横に立つ第10ビルは邪魔になるため、撤去は欠かせない。遡って2006年当時、京急が第10ビルの建物および土地を購入した時点でおそらく再開発の計画をすでに持っていたのではないかと思われる。

 立ち退きに当たっては、駅前の一等地でしかも売上の良いテナントを納得させなければならない。補償はスポット的なものにすぎない。最終的に同水準の利益が得られる物件を提示しないかぎり、テナントは首を縦に振らない。一方、リニア中央新幹線の品川駅をはじめ、まさに国家規模の一大改造計画がある。両者の利益、どのようにバランスを取っていくかは注目される。

 品川駅前の一等地、そして場末感満点で訳ありの古いビルと飲食店群。民主主義法治国家に特有な係争風景はある意味で、微笑ましい。

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