あなたは見られてます!悪いことしなければ監視されてもいい?

 久しぶりの上海出張。感想といえば、どこへ行っても監視されている実感が常につきまとうことだ。IHSマークイットによれば、中国では2016年時点で街角や建造物、公共スペースに約1億7600万台のビデオ監視カメラが設置されている。米国は5000万台と比較にならない。

 習近平政権は2017年、国内の治安関連に推計1840億ドルを投じた。2020年までに中国全土を網羅するカメラネットワークを導入し、交通違反からビデオゲームの好みに至るあらゆる個人情報を追跡する「社会信用システム」も整備する(2019年2月25日付けブルームバーグ)。

 街のいたるところに設置されている固定式の監視カメラ。それだけでは足りず、さらに車載移動式のカメラも大量投入されている。固定式と合わせて現在、2億台に迫っているか、もしやすでに超えているかもしれない。つまり7人の国民に当たり1台のカメラが配置されている計算だ。不気味と思いませんか。

 赤信号を渡らなくなったとか、車の割り込みが減ったとか。監視カメラと顔認識システムが作用しているから、市民のマナーが良くなったことで喜んでいる日本人もいるが、それで喜べるのだろうか。

 電子決済と同じ原理だ。利便性の向上という利益とともに、国民監視体制が着々と強化されている。洗脳されている者や、深く考える力をもたない者はすぐに、目に見える利益に釣られる。日常生活が便利になって、秩序が守られるようになって、何が悪いのかと。それが支配者・当局者が狙っていた効果である。

 監視されても平気だ。何も悪いことをしないので、監視されても平気だという者もいる。そこで質問。悪いことをしないあなたを監視している人は監視されていない。その人が悪いことをしたらどうするか。問題の本質は監視者の監視され方という民主主義制度のメカニズムの欠落にある。

 習近平氏は党内不正や腐敗を取り除こうとしていることは間違いない。ただそれは外部からの監視でなく、内部の監視に依存している。企業でさえ、社外取締役やら監査役やら外部監視を投入してコーポレート・ガバナンスが欠かせないというのだから、1国の運営は内部監視だけでうまくいくのだろうか。

 監視カメラや電子決済はまだ序の口。AI(人工知能)やIoTが発達すればするほど、監視体制がより精密なものになっていく。トラッキング機能の向上、特に中国がいま力を入れているブロックチェーンが加われば、監視がスポット的なものから徐々に連続性のあるものになっていく。つまり静態的監視から動態的監視になり、いずれ24時間監視、生涯監視も可能になるだろう。

 そのような隣人が今日も監視体制を強化している。そのアンテナがある日、壁を超えてあなたの敷地に入ってきても、それを容認するのだろうか。悪いことをしない善人たちに聞きたい。

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