【世界経済評論IMPACT】人手不足深刻化、それでも中国が「移民開放」しない理由

 中国でも人手不足が深刻化すると,「移民開放」は起きるのか,といった記事が最近ちらほらと目に留まる。

 どんな国でも豊かになると,国民の就業傾向が共通している。農業の仕事をやりたがらない,工業の仕事もやりたがらない,特に3Kの仕事なら誰もがやりたがらない。国民がやらなければ,外国人移民に頼るしかない。そこで移民開放するかどうかの話が出てくるわけだ。

 中国の労働力人口が7億5000万人(2020年現在)。その大半,4億人が第三次産業,サービス業をやるとなると,供給過剰に陥るだろう。日本も同じ。労働力人口6900万人(2020年現在)で,3500万人ものサービス業労働力は要らない。

 さらにサービス業のなかでも,いわゆる肉体労働型の仕事に人気がない。たとえば介護やレストランの給仕など。要するに,みんながオフィスワークを志す。教育の機会均等が叫ばれるのもそもそも学歴がホワイトカラーの入場券となっているからだ。そのために国中に大学が林立する。

 気がつけば,大学の教授もいよいよ玉石混交の状態だ。教育というサービス業も供給過剰状態といえるかもしれない。

 大学教授も大会社の正社員も,いわゆるエリート・ホワイトカラーを募集すれば,人がわんさか湧いてくるが,建築現場のワーカーとなるとなかなか集まらない。市場原理からすれば,ブルーカラーの賃金がどんどん上がり,ホワイトの給料がどんどん下がるはずだが,そうなっていない。

 そう,市場原理が働いていないのだ。肉体労働は誰でもできて代替性が高いので,価値が低くなる一方,知的労働はその反対で価値が高くなる。という理屈だが,そうなっていない。市場原理を歪める「見えざる手」が存在している。

 その「見えざる手」はつまり,資本主義社会の価値評価システムである。資本主義は市場原理であるから,矛盾ではないかといわれるかもしれないが,矛盾ではない。「第一次→第二次→第三次」という産業社会の進化神話が労働力の価値設定に歪んだ基礎をつくってしまったのだ。

 何よりも,既得権益層がいて,政治をみても,与党も野党も全員既得権益者であるから,政権交代しても何も変わらない。つまり,労働者階級は切り捨てられたのである。労働者階級に支持されたトランプのような変人政治家はエリートたちに引きずり降ろされる。

 習近平はこの本質を看破したのか,彼はある行動に出た。最先端を走るIT大手企業やバブルをつくり出してきた不動産大手企業の快走(暴走?)にブレーキをかけ,若者を堕落させるゲーム産業や虚名だけの学歴社会を生み出す教育塾産業にもレッドカードを出した。彼はあるシグナルを送ろうとしている――。「虚業をやめろ,実業に戻れ」と。

 最近,習近平が「食糧はどうするんだ」と叫んだ。誰もがホワイトカラーになれるような社会は,存在し得ない。労働集約型産業や農村が大量の労働力を必要としている。移民に頼った先に貴重な外貨の流出につながり,国家の総貧困化が目に見えている。

 習近平に批判的な日本人が多いが,わが身を振り返ってみようではないか。産業社会の進化が暴走している。そこで中国でできることは,日本ではできない。総理大臣が「虚業をやめろ,実業に戻れ」と絶叫できないのは,民主主義の悲哀である。

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