「2:8法則」は、中国のあっちこっちで生きている

 「2:8法則」という言葉を聞いたことはあるだろうか。

 これは「パレート法則」ともいい、スイスのローザンヌ大学で経済の均衡数量化を研究していたイタリアの経済社会学者、ビルフレド・パレート氏が発見した法則である。氏が19世紀のイギリスにおける所得と資産分布を調査したところ、20%の富裕層にイギリスの資産総額の80%が集中し、この現象が継続して繰り返されることを発見したのである。

 その後は資産分配例だけではない。

 「働きアリの20%はあまり働いておらず、その20%のアリを巣から除くとまた新たな20%の怠け者アリが生じる」
 「トップ20%の営業マンが売り上げの80%を上げる」
 「10項目の品質向上リストのうち、上位2項目を改善すれば80%の効果がある」
など、さまざまな分野で使われるようになり、まさに現代社会にも十分通用する「万能法則」に変身した。
 「中国ビジネスの現場に注目せよ。至るところに2:8法則が生きている。この法則を理解し、活用できれば中国ビジネスに大きなプラスになる」と持論を力説するのは、英ケンブリッジ大学経営大学院のケイス・グッダル教授である。
 「2割のエリート社員が会社の80%の収益を支えている」、「2割の主要顧客が売り上げの8割に寄与している」、「ほとんどの外資企業の顧客層は1~2割の富裕層、アッパー階級に限られている」…など、中国ビジネスの現場における2:8法則の健在ぶりに気付く。

 この法則に反した経営体制で中国ビジネスに臨めば、失敗事例が続出する。日本国内では一般大衆向けの商品が中国市場でターゲット顧客1~2割の高級品になることに気付かず、従来どおりの販売手法を用いれば失敗する。売り上げの8割に寄与しているやり手の中国人スタッフに、それ相応の待遇を与えないがため逃げられてしまう。

 2:8法則を見落とした経営はうまくいかない。ときには悲惨な結果となる。一般に日本企業がこの法則を軽視しがちなのは、それなりの原因がある。2:8法則は表向きには量と質のアンバランス、つまり「不均衡」を強調する法則である。日本社会はどちらかというと、「量と質の均衡」を重視する均一型の社会である。「均衡」が美徳とされる部分は依然として根強い。しかし、よく吟味するとパレート氏の法則は、「不均衡」を訴えるものではないことに気付くだろう。パレート氏は、「量」という現象にとらわれずに、「質」を考えるよう呼びかけているのではないか。結果的に「質」の均衡と調和をなくしては、物事はうまく運ばない。

 日本社会そのものも、1億総中産階級の構造に異変が生じている。経済紙には、「富裕層」という文字が頻繁に現われ、売れ筋商品のトップ番付で超高級品と低価格品が顔をそろえることもこれを裏付ける。日本の某地方の大手タクシー会社社長は、「日本社会の貧富の差は確実に拡大している。タクシー業界は一番のバロメーターだから、身をもって実感している」と断言する。

 貧富格差の拡大は必ずしも悪いことではない。社会成長の原動力の一つでもあると筆者は認識する。貧富格差の拡大は、まず社会の富の再分配を意味する。仮に現状総量のまま「2:8」構造になれば大きな社会問題となるが、富の総量増に注目されたい。2:8法則のもとで、20%のパワーハウスに仲間入りしようと躍起になる人も多いだろうし、バリューの創出が総量増につながり、バランスが保たれるのである。

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