釣った魚には餌をやらない?そして交渉学の真意を考える

 ここのところ、顧客企業から、関連グループ企業への特別優遇条件適用や料金の特別割引などいわゆる「特典」を要求してくるケースが複数、見受けられた。

 すべての要求を、事情を説明したうえで、堅くお断りする。

 当社の顧客企業のなかで、何も要求せず、提示された正規料金、取引条件をそのまま受け入れ、長年取引を継続されてきた企業が、多数おられる。なかに、「そういえば、最近特定案件でだいぶお時間を取らせているので、この件、別途請求してください」、とわざわざ請求を求めてくる企業もおられる。

 新規契約だけに目を奪われ、安易に特別優遇の要求に応じた場合、従来の優良顧客には申し訳が立たない。「釣った魚には、餌をやらない」、餌を新たな魚釣りに使うことは決して、許されるものではない。人事コンサルタントとして、まず、企業倫理、商道徳の模範を社員に示すことが私の責務である。特に、この中国で!

 「特別取引要求に『NO』とはっきり言っていいんですか、契約を解除されてもいいんですか」、と社員に聞かれる。

 「もちろんです。契約を解除されても、取引不成立でも、胸を張って『NO』と言ってください。私たちの姿勢と方針を説明しても、理解を得られない、このような顧客と取引を成立させても、この先はきっと良い仕事ができません。コンサルタントは、顧客企業と息がぴったり合わなければ良い結果が出ません」

 私のやり方は、古臭いとか、「頑固オヤジ」とか言われるかもしれない。それでも、貫いていく。絶対に曲げない。このような「頑固オヤジ」は、名誉として喜んで受け入れる。これは、私の美学である。

 1点だけ説明しておく。全取引業者と必ず値引き交渉をする、これを標準業務手順とする企業もおられると思う。当社を、交渉リストから外していただきたい。それがダメなら、交渉拒否のやりとりの標準化、省力化を図りたい。あるいは、取引先リストから当社を抹消していただく。

 この記事は、決して値引き交渉を否定する意図で書いたものではない。値引き交渉は、中国で欠かせないものである。逆に、最近、一部値引き交渉の担当者を見ると、交渉のスキルが不足しているように思える。交渉とは、相手方の興味や同意を引き出すためのプロセスであり、かなり高度なスキルを要する。ただ、「安くしてください」の一点張りでは、交渉がうまくまとまらない。交渉には、十分な事前準備作業が必要である。自分にとって有利な材料、相手方にとって有利な材料、うまくロジックを組み立てて、交渉を成立させるのが、交渉のプロだ。

 この際、一層研修カリキュラムに、「交渉スキル」を盛り込もうかなとも真剣に考えている。交渉は学問であり、「交渉学」がちゃんと存在する。ただ、「交渉学」の真意は、「交渉」という過程でなく、「コンセンサス・ビルディング」、つまり「合意形成」という目的にあるのである。

 さあ、新商品の開発にでも取り組もうか――「中国ビジネス現場における交渉学」講座。

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