マレーシア経済は回復し始めている。
マレーシア統計局のデータをみると、まず年ベースでGDPは4月の-28.6%から6月の-3.2%へと落ち付きを取り戻しつつある。製造業は6月に+4.5%のプラスに転じている。小売業は4月の-32.4%から6月の-9.2%へと大幅の好転を見せている。国内観光業も概ね好況に転じ、ホテルの客室稼働率は4月の8.6%から8月の33%へと改善している。一部の観光地のそれが50%~80%に達している(8月21日付南洋商報)。
マレーシアの場合やはり、過酷なロックダウンの功績が大きいといえよう。概ね4つの原因が見出せる。
まず、一度徹底的に抑え込んだコロナ感染は、アンダーコントロール(制御下)に置かれている。なかなか感染者数をゼロにすることは難しいが、1日当たりは1桁から30名以下の2桁までの範囲内に一進一退しながらも、概ね安定している。
2つ目、感染経路はほぼすべて押さえているため、ピンポイント・アタックが可能になり、効率を上げている。つまり、限定的な狭域を狙い撃ちしてクラスター潰しに取りかかることだ。広域的な大範囲・大規模ロックダウンは現時点必要なくなった。
3つ目、行政や司法による強制力を緩めていない。マスクの強制着用がその好例。どんな理由があろうと、違反行為が見つかった時点で容赦なく高額罰金(通常1000リンギット、約2万5000円)。市民に恒常的緊張感を与えている。
最後に、国民の体験型学習の効果が大きい。一度本格的なロックダウンを食らったところ、地獄の苦痛が身にしみて理解できるようになった。天国はないが、地獄に堕ちないためにどう行動すればいいか、国民はよく心得ている。
今後も大丈夫だという保証はどこにもないが、とりあえず現時点ではマレーシアのコロナ対策が成功したといってよかろう。決して「マレーシア・モデル」と称して自慢する暇もなく、マレーシアは引き続き緊張感をもって防疫に当たっている。
そもそもコロナ感染症の対策に「○○モデル」はない。あるとすれば、徹底した検査、徹底した隔離、徹底した追跡、徹底した強制力という共通ルールではないだろうか。
日本国内の論調「コロナ防疫か、経済を回すか」は間違っている。二項対立ではない。私の持論だが、防疫をなくして経済が成り立たない。経済を回すためにも、まずは疫病を抑え込むことだ。マレーシアが示してくれたのは「マレーシア・モデル」ではなく、ユニバーサルな原理であり、鉄則である。