新型コロナウイルスに関して、致死率や死亡率がよく語られている。これらは確かに、疫病の怖さを判断するうえで重要な指標である。ただ、死にさえしなければいいといえるのか。そうではない。後遺症の問題がある。新型コロナウイルスの後遺症については、日本では、あまり語られていない。一方、台湾や香港ではすでに一部論文が発表され、後遺症の問題がたびたび指摘されている。中には軽症者でも、下気道に症状が出れば、治癒後でも修復できない後遺症が残る症例が報告されている。
● 後遺症が怖い、軽症者放置の方針は問題あり
肺が「ゼリー状」化し、組織の線維化によって、恒常的な酸欠状態にあり、正常な機能を失う。息苦しさを感じ、普通に呼吸ができないという症状が生涯付きまとい、運動どころか、通常の生活にも支障が出る。さらに神経系の障害も相まって、地面から1センチ以上飛び上がることすらできないという。
分かりやすくいうと、常時酸欠のため呼吸困難を感じ、浸漬・溺水状態に陥ることである。肺がゼリー状のようなものに包まれているため、水中ではなく空気の中で溺死していくような感覚である。予後が悪く、長期間にわたって大量のリハビリを行うことによって、どこまで修復できるかも定かではないという。
走れなくなる。歩くことも辛い。肺機能や神経系の障害だけではない。さらに心臓や腎臓ないし男性の生殖機能へのダメージも指摘されている(台湾TV東森新聞)。このTV番組に出演した徐上富医師は、現状ではまだ症例が少なく、定論として語れないものの、後遺症のリスクとして十分にあるとし、警戒を呼びかけた。
さらに、香港大学微生物学専門の袁国勇教授率いるチームが3月23日、査読制医学専門誌「ランセット」に初の大規模かつ系統的な新型コロナウイルスに関する調査報告を発表した。いくつかの重大な発見が紹介された(4月3日付台湾信伝媒)。
まず、新型コロナウイルスは、感染した時点から高い病毒量をもち、無症状の状態においてもウイルスが複製をはじめ、伝染もする。次に、軽症者も重症者も、伝染力に大差なく、同じように伝染拡散する。したがって、重症者のみを治療し、軽症者を放置する方針は間違いである。
さらに、検査では陰性の再陽性化症例があり、抗体がある程度できてもウイルスが死滅せず、依然として生きていることが香港や台湾の治療現場で複数報告されているという。
この調査報告をみる限り、日本政府が取ってきた「検査の最少化」「無症状・軽症者放置」政策は間違いであり、これによって逆に感染者が不可視化・潜在化し、社会で拡散をどんどん広げ、いずれ医療崩壊を招来しかねない、という結論にたどり着く。
● 「インフルエンザと変わらない」ほど甘くない
たとえ軽症者ないし無症状者であっても、仮に深刻な後遺症が残った場合、いったい誰が責任を取るのか。要するに早期検査と早期診断・治療をすれば、回避できたはずの後遺症に生涯苦しめられる被害者が将来、大量に発生するシナリオを想定しなければならない。
大量の感染者が発生し、その一部だけでも予後不良や後遺症になった場合、人数的には驚くほどの規模に上る。この後遺症層は将来的に新たな格差社会の弱者に転落する可能性が出てくる。生活品質の低下だけでなく、社会的活動においても差別を受けやすく、就職や仕事、結婚などで不利な境地に陥りかねない。つまり、ある種の社会問題となる。
水俣病を想起する。長い歳月を経たにもかかわらず、多くの被害者が病に苦しみ、差別や偏見に傷つき、裁判が続いた。命や健康よりも経済成長を優先する社会構造の歪みが指摘されてきた。これに類似性が若干あるかもしれないが、今回の新型コロナウイルスは比較できないほど規模が大きく、より深刻な問題に発展する可能性があるだろう。
「インフルエンザと変わらない」「致死率が低い」と、新型コロナウイルスは一部甘くみられているが、後遺症というリスクを考えると、決して軽視すべきではないことが明らかだ。もし、早く検査を受けて、早期発見すれば、状況が違っていたかもしれないということになれば、責任問題が生じる。
私の友人のAさんはフェイスブックに投稿し、「軽い肺炎の症状が1週間以上続いているので、念のため保健所に電話で相談してみたのだが、こちらの懸念をどれだけ説明してみてもコロナ感染者との濃厚接触状況を確認できない以上、コロナ感染の可能性はほぼないと言われた」と窮状を訴え、さらに、Aさん自身の感触として、「やり取りの間に感じたことは如何に検査対象者を減らすかという姿勢でしかなかった」と語った。
「コロナ感染者との濃厚接触状況」の確認は本当に意味があるのか。現に日本国内の感染者の多くは「感染経路不明」となっていることから、つまりどこで誰と接触したことで感染したか心当たりがないという状況が明らかになった以上、感染者との接触状況を確認すること自体がナンセンスではないか。
日本では医療崩壊を防ぐために、PCR検査数を最大限に絞り込んでいる。日本国内の検査数が諸外国に比べて極端に少ないともいわれている。検査を受けるために、発熱などの症状が数日以上続いた場合など厳しい条件が課されている。またAさんのような、各地の医師や保健所が検査を拒否するケースも多数報告されている。このように検査ないし治療を拒否され、後日新型コロナウイルス感染と判明し、さらに後遺症が残った場合、当事者たちは果たして納得できるのだろうか。
医師法第19条では、「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と、いわゆる医師の応召義務が規定されており、診療に従事する医師は、正当な事由がなければ患者からの診療の求めを拒んではならないとされている。そこで検査対象者を減らすように何らかの形の行政指導などがあったとすれば、それが「正当な事由」になり得るか、将来的に争われ、後遺症の被害者たちが医師や病院ないし行政、国家を相手取り訴訟を提起する可能性がないともいえない。
私は自分のフェイスブックで友人たちにこう呼び掛けている――。「症状があっても検査を拒否された場合は、必ず担当者の氏名を聞いて会話を録音しましょう。証拠確保は自己防衛上最も重要な手段!」
私は医師でもなければ、疫学の専門家でもない。そのうえ、新型コロナウイルスの後遺症に関しては、現に症例数の積み上げによって検証される途中であるから、いずれにしても確固たる結論を出す段階ではない。かといって、決して無視していいことではない。「自分だけは大丈夫だろう」という「正常性バイアス」の存在を知ることが、危機管理の第一歩となる。
新型コロナウイルスを絶対に甘く見てはいけない。自分の身は自分で守る。こういう時代である。