食い倒れムアール(6)~廬山茶室、哲理を示唆する海南チキンカレーライス

<前回>

 貪食街――ムアールのAvenue 4は、英語名よりも、その中国語名(広東語読み:タンセッガイ)がよく知られている。「食を貪る街」。それ以上相応しい名前はあるまい。一部の日本語資料では、漢字を間違えて「食街」とされているのだが、「貧」と「貪」はまったく意味が違う。

 100メートルほどのフードストリートに、食堂や屋台がギッシリと詰まっている。すべてを食べ尽くすには、おそらく最低半月はかかるだろう。いや、体はまず持たない。食い倒れツアー3日目の体は、随分重たくなってきたので、取捨選択をせざるを得ない。まず、どうしても行きたい店がある――廬山茶室(Kedai Kopi Lu San)。

 看板料理は、海南咖喱鶏飯(海南チキンカレーライス)。50年間一筋のチキンカレーライス、今は三代目の黄明清さんが自ら店頭に立つ。メインメニューは、チキンカレーライスと角煮飯の2品だけ。これで50年も作り続けてきたとは凄い。昼の時間には、店内はほぼ満席。持ち帰りを買う列も出来ているほど大繁盛。

三代目の黄明清さんが自ら店頭に立つ

 気になる店名の「廬山」だが、海南名物料理とは随分離れた江西省の山名を冠したのはなぜだろうか。もしや蘇軾の詩句「不識廬山真面目、只縁身在此山中」が出典か?「廬山の本当の姿を知らないのは、山の中にいるからだ」という意味から、世の中(他店)のカレーを食べ尽くしてから、始めて、当店の美味を知るという隠喩が使われたのではないかと。

海南チキンカレーライス

 哲理を示唆する店であるならば、安々とその味をここで表現するべきではない。「廬山」の海南チキンカレーライスがどうのこうのうまいのだといったら、軽薄すぎて、世間の笑い者になる。人それぞれのカレー見聞や味覚をもって、実際にこの店で食してこそが流儀といえよう。

 ご馳走様でした。

<次回>