銀聯から原油、中国人民元の勢力拡張で覇権一歩手前

 中国の銀行は通常、銀聯ブランドとVISAブランドという2枚別々のクレジットカードを発行する。どっちを使うか(特に海外)は客が自由に選べるようになっている。

 私は断然、銀聯を使う。まずレートが全然違う。VISAは「現地通貨→ドル→人民元」の決済で中間のドル経由でレートが悪化し、ドルにマージンをがっぽり取られる。しかし、銀聯の場合は「現地通貨→人民元」の直接決済なので、レートは断然良い。公開レートとほぼ変わらないときもある。

 しかも、銀聯カードの溜まるポイントは、VISAより多い。キャンペーンのときは、銀聯ポイントがダブルになっていたりもする。つまり、インセンティブの設定によって意図的に銀聯カードの使用を奨励するわけだ。中国は早い段階からドル基軸の支配的地位を切り崩す戦略に乗り出していたのだ。

 しかし、ゲームチャンジャ―の中国が仕掛けた金融競争には、残念なことに傲慢なアメリカは応じず、放置してきた。米国ルール・体制下の既得権益ががんじがらめになっていたのも一因だった。

 このたび(2022年12月上旬)の習近平のサウジアラビア訪問で、原油・天然ガスの人民元決済が一歩も二歩も進んだ(ほぼ決まりと言っていい)。原油といえば「ペトロダラー」。しかし、ドルを基軸通貨に押し上げた原油などの国際取引において従来の常識が覆ろうとしている。

 サウジ王室とドルの通貨覇権との関係が深い。さかのぼって、ニクソン政権は1974年10月に「サウジ王家の保護を約束する見返りに原油輸出を全てドル建てで行う」ことに合意。3年前の71年に米国はドルと金の交換を停止し、その後のドル為替相場の下落を食い止めるべく、金の代わりに原油を使った。これがペトロダラーの始まりである。

 ついに、「ペトロ人民元」が出現すれば、金本位から原油本位へと凌いできたドルは次、何本位にするのか?

 繰り返してきたように、中国が世界覇権を握るまでにあと2つの関門が残っている――金融とハイテク。いずれもじわじわと中国は乗り越えつつある。半導体産業では水面下で格闘が進んでいるが、金融ではこのように変化が顕在化しつつある。

 中国はこのように十年や数十年スパンの長期国家戦略の構築に取り組んできた。だから指導者の長期的独裁が欠かせないのだ。民主主義国家では到底真似できない(トランプは例外)。政治家は選挙にしか目を向けない。中国はこの弱点をとっくに見抜いた。

 善悪や好嫌を別として、中国の勝利はほぼ間違いない。

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