中華タバコが飛んでこない理由

 中華ブランドの煙草、ライター、そして携帯電話。

 中国の民営企業家といえば、この「三種の神器」をイメージする。どこにいっても、テーブルにど~んと、「三種の神器」を登場させる。そして、同席の仲間には、中華タバコを定期的に飛ばし、「おい、おまえも吸え」と勧める。一緒にもくもくとした紫煙を楽しむのは、仲間の証である。

 寧波では、顧客企業の地場協力会社へのヒアリングと打ち合わせが予定されている。一代で財を築き上げた中国系の民営会社(一応外資も25%入っている合弁だが、中国人董事長がすべての実権を握っている)で、寧波地方でも業界屈指の大手である。

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 2日間の会議中にも、食事中にも、私には、中華タバコが飛んでくることはなかった。仲間ではないというサインは明確である。コンサルタントの介入は、歓迎されているような雰囲気ではない。董事長の中国人C氏は、無表情に私と弁護士の質問に答えている。

 「工員たちの賃金引き上げ計画はどうなっているのでしょうか」
 「引き上げません」
 「賃金法令の遵守もありますが、優秀な従業員にインセンティブを与えるとか、そういう制度はないんですか」
 「必要ありません。給料はとにかく安く抑えます」

 ヒアリング項目の最後だが、「貴社の工場は、いまどのような保険に入っているのか、金額は?」との問いに、思いもよらぬ回答が返ってきた。

 「保険?そんなもんは入っておらん」
 「保険がないと、工場の財産が万が一災害とか盗難に遭ったらどうするんですか」
 「この地域では、いままで火事も盗難もほとんどありません。とても安全な地域なんです。われわれの製品も燃えやすい成分が入っていません。だから、保険は必要ありません。無駄遣いです」

 これ以上踏み入った会話してこそ無駄のような気がして、ヒアリングを打ち切った。経営理念や価値観の根本的な相違だ。

 世界に通用する中国のブランドはほとんど存在しない。ブランドを裏打ちする企業の理念や文化が、世界の常識から外れ、大きく歪んでいるからだ。中国の企業家たちは、企業をあくまでも、単なるマネーマシンのように扱っている。だから、松下幸之助や稲盛和夫のような企業家が生まれることは決してありえない。

 企業経営の哲学と理念をなくした企業に残るのは、金しかないだろう。いや、私は間違っていた。そもそも「Money Only」が、中国企業の哲学なのかもしれない。

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