「マイホーム」という罠、日本人同士の搾取を見よ

● 飼い殺し型の収益源

 先日、某元銀行マンと雑談。彼だけではない。多くの金融業友人もこう言ったーー。

 多くの投資商品は、投資者の利益よりも金融機関の手数料のために作られている。その中の、最大の傑作は、住宅ローン。住宅ローンは、数十年にわたる安定した利息収入を生み出す商品である。たとえ表面上の金利が低くても、元本が大きく返済期間が長いため、金融機関にとっては「飼い殺し型の収益源」となる。

 住宅ローンには不動産という担保が付き、さらに火災保険・団体信用生命保険などの保険商品も抱き合わせ販売されるため、金融機関のリスクは大きく抑えられている。一方、借り手はリスクと返済の重荷を一身に背負う構図だ。

 「マイホーム」という美名。「家は資産だ」「持ち家こそ安定の象徴」――こうした価値観を利用して、一生で最大の買い物を借金でさせる仕組みを正当化する。多くの人は資産形成のつもりでローンを組むが、実際は資産よりもローン残高のほうが長く残る。ローン契約時の手数料、保証料、金利差、保険料、繰上返済手数料…こうした名目を変えた手数料が多数散りばめられ、金融機関の収益に直結している。

 つまり、住宅ローンは金融機関の収益設計に最も忠実に設計された商品でありながら、それを借りる側は「夢のマイホーム」として自ら進んで契約する。これほど金融機関にとって都合が良く、倫理的批判を免れやすい商品は他にないという意味で、「最大の傑作」と評されるのである。

● 家の平均寿命とローンの関係

 日本の一軒家は平均寿命が30~35年。一方、マレーシアの家は50~60年使われる。この違いは、家を買う意味そのものを大きく変えている。日本では、多くの人が35年ローンを組んで家を買うが、返済が終わるころには家がちょうど寿命を迎える。つまり、長い年月お金を払い続けても、最後に残るのは「古くなった価値ゼロの家」と「解体費」だけになることが多い。

 マレーシアでは、一般的にローンを払い終わってもまだ20年、30年住める。しかも、中古市場が盛んで、売ることもリノベーションして住み続けることもできる。私はマレーシアで一応12年ローンを借りたが、6か月で完済状態になり、銀行があまり喜んでいない。

 日本の住宅ローンは「資産形成」のつもりで払っていても、実は人生をかけた「消費」になっている。一方で、マレーシアでは家がちゃんと「資産」として残る可能性が高い。この差は、住宅の寿命だけでなく、建て方、文化、制度、すべてが関係している。ローンを組むという行為が、国によってまったく意味が違ってくるのである。

● 日本人同士の搾取構造

 日本人ファースト。そう叫ぶ前に、日本人同士の搾取構造を直視すべきである。たとえ外国人が若干の優遇措置を受けていたとしても、その規模は微々たるものであり、実際に日本人の人生から金を吸い上げているのは、他でもない日本の金融機関と不動産業界である。とりわけ、住宅ローンはその最たる装置である。

 つまり、日本人同士の搾取。一例にすぎない。以下AIの試算を紹介する。

 日本の住宅ローンによって、金融機関が国民から巻き上げている金額を概算してみよう。

▼ 仮定条件(平均的な例)
 平均借入額:3,500万円
 返済期間:35年ローン
 金利:1.0%(全期間固定型)
 この条件において、利息総額は約650万円前後となる。つまり、1人あたり住宅1件につき、利息だけで600~700万円を金融機関に支払っている計算になる。

▼ 全国レベルで見るとどうなるか?
 年間の新規住宅ローン件数:約40万件(2023年度 住宅金融支援機構)
 35年間での累積ローン件数(ざっくり):1,000万件強
 1件あたり利息:約600万円
 600万円 × 1,000万件 = 約60兆円

 日本の住宅ローン制度を通じて、少なくとも50~60兆円規模の利息収入が、長期にわたり金融機関に流れている。これは本来であれば、国民が老後資金、子どもの教育、地域の消費活動に充てることができた可処分所得であり、それがそっくりそのまま、金融業界の収益として吸い上げられている構図である。

 しかもこれは「金融機関にとって理想的な商品」
 担保付き(=ローン返済が滞っても家を回収できるリスクヘッジ付き)
 長期契約(=35年という安定収益の源)
 三重取り構造:
  ① ローン金利(利息)
  ② 手数料・保証料(契約時)
  ③ 火災保険・団信など保険商品の抱き合わせ販売

 つまり…住宅ローンとは、国民が「人生の夢」だと信じて契約するものだが、金融機関にとっては、庶民の人生からもっとも効率よく金を吸い取るための装置である。その構造を理解せずに、「家を買えば安心」「ローン完済で資産形成」などと信じ込むことは、自ら首に鎖をかけて檻に入るようなものである。

 日本人をもっとも苦しめているのは、外国人ではない。日本人同士が築いたシステムそのものである。まずはその現実に目を向けるところから、「日本人ファースト」は始まるべきなのである。

● 最大のタブーと真実

 日本人同士の搾取。――それは、この国における最大のタブーである。どの政治家も候補者も、口が裂けても正面からは語らない。なぜか――それは、この搾取構造そのものが、政治と金融、官僚と業界、メディアと教育といった日本社会の主要インフラと結託して成立しているからである。

 住宅ローンを例に取れば、国民が35年もの長期にわたって金を払い続けるこの仕組みは、金融機関だけでなく、建設業、不動産業、税収構造、土地行政、都市計画、教育(「家を持って一人前」思想)、そして政治そのものが利益と支配の循環構造の中に組み込まれている。
 
 つまり、国民が「マイホームという夢」を見続ける限り、国全体が安定して吸い上げを続けられる仕組みが完成する。その搾取は巧妙かつ合法で、誰も明確な加害者がいないかのように見える。そして何より恐ろしいのは、搾取されている当人が、それを「幸せ」と思い込んでいることだ。

 こうした構造に切り込めば、住宅政策、金融政策、税制、土地制度すべてにメスを入れる必要が出てくる。つまり、日本型社会の中核そのものを否定せざるを得なくなる。それをやれば、自民党でも野党でも、業界票・団体票・スポンサー・既得権益すべてを敵に回すことになる。

 ゆえに、誰も口を開かない。表では「国民の生活を守る」と叫びながら、裏では静かに「国民の生活を売っている」のである。これが、日本人同士による搾取が政治で取り上げられない最大の理由である。

 「タブー」とは、語れないのではない。語った瞬間に、その政治生命が終わるからである。したがって、外国人という仮想敵を立てて、思考力のない愚民を煽るのが最も都合が良い。

● 補足――年収と資産

 日本人は「年収」という言葉に弱い。年収600万円、800万円、1000万円――これを聞いただけで「勝ち組」と思い込み、周囲もそれを称賛する。しかし、それは単なるフロー(流れ)であり、資産形成とはまったく別物である。

 海外、特に欧米型の思考は違う。そこでは「純資産(Net Worth)」=保有資産−負債こそが個人の経済的健康を測る基準である。どれだけ稼いでいようが、借金が多ければその人はマイナスの人間とみなされる。

 一方、日本では人生のスタートから負債が組み込まれている。20歳からは奨学金、カーローン。30歳にはマイホームローン。結果として、20歳から75歳までの大半の日本人は「純資産マイナスの人生」を歩んでいる。にもかかわらず、彼らは「年収1000万」などという言葉に酔いしれ、自らが「借金まみれの虚構の富裕層」であることに気づいていない。

 これは個人の責任ではなく、教育の責任である。「ローン=前向きな投資」「マイホーム=資産」という幻想を、誰も疑うことなく教え込まれてきた結果である。だが、そろそろ現実に目を向けるべき時だ。学校教育の中で、「年収よりも純資産」「資産よりも負債の管理」「夢よりも現実のライフプラン」を教えなければならない。

 豊かさとは、数字で見せびらかすものではなく、静かに残るものである。そして、ローンまみれの日本型人生は、その静けさを奪う構造になっている。

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