死罪と無罪の差、イスラム法と政教分離国家の法律

 昨日の記事に出てきたフランス法(通常の法律)とイスラム法(宗教法)のことで良い質問があったので、その回答に補足して掲載する。

 この質問に完全に答えるには本1冊くらい書けるような内容である。私もマレーシアに住んでからの経験や勉強で得た知識に限っていうと、概ね3つのグループに分けて考える必要がある。

 グループA  政教分離の「二重法」国家。マレーシアは典型的な事例だ。普通のマレーシア法とイスラム法、二重に存在する(表現が適切でないかもしれないが)。マレーシア法は国法であり全国民(もちろん滞在中の外国人も含む)に適用するが、イスラム法はムスリムにのみ適用する。ただ、二重の存在であるが故に、マレーシア法と運用それ自体がイスラム法に大きな配慮(理や情の要素もあるのだろう)をして、それを尊重する内容が多い。

 グループB  政教分離の単独法国家。日本は日本法だけで、フランスもひとつのフランス法しかない。するとイスラム法への配慮は薄れがちだ。イスラム法あるいはイスラム教への配慮は、各自の価値観といったガイドラインに委ねる形になる。雑誌社がパリに法人登記していれば、ムハンマドをどう描こうとフランス法の「表現の自由」で容認されてしまう。あとはすべて雑誌社自身の判断に委ねる。

 グループC  政教一体の単独法国家。たとえば、サウジアラビアでは、宗教が法律となりコーランに基づくイスラム法(シャリーア)により統治が行われている。ムハンマド冒涜の行為があれば、不敬罪に相当し死刑を適用されることもある。

 面白い事例がある(2012年)。ツイッター上でムハンマド冒涜とされる内容を投稿し、罪を問われ国外に脱出したサウジアラビアのジャーナリストがマレーシアで身柄を拘束され、サウジアラビアに送還された。ちなみにマレーシアとサウジアラビアは正式な犯罪人引渡条約を締結していない。これはまさに両国がイスラム法という基準法をベースに行った判断だったのだろう。このジャーナリストがパリに逃げた場合、送還されることはあるのだろうか。

 この件について国際人権団体は、ジャーナリストが送還されれば死刑になる恐れもあるとして、マレーシア当局に対し身柄を引き渡さないよう要請していた。しかも、ジャーナリストはマレーシアを経由してニュージーランドに向かう予定で、マレーシア当局は見て見ぬふりをしようと思えば、いくらでもできたはずだが・・・。

 パリ雑誌社のテロ事件。テロリストのいわゆる大義名分は、イスラム法が及ばない国土であるが故に、ジハードに近い手法によって、代理で犯罪人の死刑を行ったというものになるのではないかと。私刑による死刑執行といったところか。

コメント: 死罪と無罪の差、イスラム法と政教分離国家の法律

  1. イスラム教の指導者が冒涜され起きた事件に関しては、結論なき議論とぎりぎり範囲まで擁護なさっています。これがもし、共産党の指導者が冒涜され同様な事件が起こった場合はどうでしょう?

    そこまで擁護なさるでしょうか。イスラム教も、共産党も、フランスの雑誌社にしてみれば他国の宗教や政党です。それらを風刺することは、フランスでは違法ではないことは、結論なき議論どころか、議論の余地はなくはっきりと合法であると結論が出ているといえるのではないでしょうか。

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