TPP、変わるベトナムと変わらぬ中国の労働組合現場

 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の署名式がNZで行われた。今回のTPP、私がもっとも注目しているのは、ベトナムと中国だ。

 一般論的には参加12か国の中でももっとも「途上度」の高いベトナムは、相対的に多くの利益と機会を得たと考えられる。もう少し大胆な予想では、ベトナムの対米同盟国参加への助走でもある。ハイフォンあたりの港に米艦が駐屯する光景も現実味を少しずつ帯びてくるだろう。

 中国。TPPは中国を排除しているというが、私が見るには、TPP参加条件に関して先天的にミスマッチしている中国はたとえ招待されたとしても、参加を断るだろう。一つ大きな関門は独立系労働組合結成の容認である。つまり自由結社権の是認。これは譲れない一線であろう。

 「経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約(International Covenant on Economic, Social, and Cultural Rights)は、国連で可決された人権問題関連としては最も重要な国際規約の一つで、公民の自由な結社権を十分に是認するものである。特に労働権保護の角度から、公民が自由に労働組合を結成することや、労働組合を選択し、これに参加する権利などについて規定している。つまり、団結権(労働組合の結成・加入権)と労働争議権(団体交渉・ストライキ権)の保障である。

 「第8条第1項 この規約の締約国は、次の権利を確保することを約束する。(a) すべての者がその経済的及び社会的利益を増進し及び保護するため、労働組合を結成し及び当該労働組合の規則にのみ従うことを条件として自ら選択する労働組合に加入する権利。この権利の行使については、法律で定める制限であって国の安全若しくは公の秩序のため又は他の者の権利及び自由の保護のため民主的社会において必要なもの以外のいかなる制限も課することができない」

 中国では2001年にこの規約を批准したものの、上記第8条1項(a)号、つまり結社の自由に関する条項について留保を付すとの声明を発表した。現時の中国がいわゆる官製に属する「単一労働組合」の中華総工会以外に、独立系労働組合の結成を認めていないのもその体現である。

 これに対しベトナムは従来、中国と類似する「単一労働組合」、ベトナム労働総同盟(VGCL)を持つが、「経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約」第8条1項には、何ら留保を付す声明もなされていない。

 さらに、今回のTPP合意に伴う独立系労働組合の結成には、ベトナム政府が明確に受け入れの意思を表明し、その証としては「Side Agreement」(TPP米越付帯決議)がなされた。

 独立系労働組合は何を意味するかというと、単一の労使協調路線への担保が崩れ、労使対決色を打ち出す組合の出現も可能になり、また労働組合ビジネスというものも生まれ、新たな種の利権集結が労働現場を複雑化させる。

 そういう意味で、TPPはバラ色一色ではない。ベトナムにとって、TPPは国有資本や知財権保護問題といった既得利益への揺さぶりだけでなく、労働組合という新たな利権団体を生み出す側面も持ち合わせている。この辺について、日本企業はまだ深く注意を払っていないようだ。これは、ベトナムのリスクである。

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