人事分野における独禁法適用へ、賃金条件の談合や引き抜きにNO!

 マレーシア日本人商工会議所(JACTIM)の井水会頭の2月号コラムから一節抜粋する――。

米国独禁法が人事面にまで及び、域外適用されるリスクがあることを皆様、ご存知でしょうか?地域や業界内での人材引き抜きを禁止するような企業間の取り決めや初任給や賃上げ水準の調整等々、よく耳にするお話で、マレーシアにおいても日常茶飯事的に行われている労働慣行のようにも思います。近年、日本においても米国と同じような動きが出てきており、マレーシアにおいては、2013 年に施行された競争法が、米日のような動きになっていく可能性があることが、調査により分かって参りました」

「米国の事例を参照致しますと、2016年10月に米国独禁法当局が、『人事担当者向けの独禁法上のガイダンス』を公表し、賃金についての合意及び引抜き禁止の合意に対して刑事訴追する意向を表明しています。本ガイダンスは原則として、米国における行為に適用されるものであり、米国子会社における採用活動等にあたっては留意する必要がありますが、米国以外の当局の今後の動向についても注視していくことが重要です。合意に至らない場合であっても、賃金や雇用条件等の機微情報を(競合)他社と交換すること自体、独禁法違反となり得、当局の摘発対象となるそうです。かつ、司法省はこれらの行為について、今後、刑事訴追を行う意向を表明しています。故に、適切な調査機関を通じて情報を取得する、又は個社が特定されないような情報交換にする、更に、過去情報の交換に限定する等、一定の処置を施すことで適法な情報交換となります。ひとたびカルテル事件を起こしてしまうと会社にとっても個人にとっても甚大な損害が発生することについてはご存知の通りと存じます。つきましては、まずもって、皆様が所属する地域や業界で、従業員の引き抜きや賃金・福祉などに関わる『紳士協定』なるものを書面であれ、口頭であれ、お約束されているケースがあれば、自重賜れば幸いです」(以上引用)

 両手を挙げて賛成する。マレーシア以外の地域の日系企業にも注意してほしい。

 まず、賃金について企業間の談合や合意(紳士協定)は独禁法の問題だけでなく、労働市場メカニズム、特に優秀な人材の賃上げを妨害するものでもある。同一価値労働同一賃金の原則に則って、人材は個別の判断と交渉によって、賃金や雇用条件等を適正に決定すべきである。

 次に、人材引き抜きは、教育訓練に資本を投下した企業に対して甚だ不公平な行為である以上、人材紹介会社であれ、企業自身であれ、慎むべきだろう。特に競業避止要件のかかる従業員については、引き抜きにとどまらず、自発的な転職でも所属企業の知財権にかかわる重大事項であるため、違法行為にならないよう注意が必要だ。

 労働市場は人材の流動化、賃金相場における市場メカニズムの健全な機能などといった観点から、米国法およびこれに追随する他国法の立法趣旨が正しい。各企業においても、これを理解したうえでフォローしてもらいたい。

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