【Wedge】「中国撤退」はもはや時代の流れ、それでも残る企業に必要な「6つの条件」とは?

● 終着駅に近付いた李嘉誠の「中国撤退」

 李嘉誠氏の中国撤退は終盤に差し掛かったと、4月2日付けの拙稿「香港大富豪の『中国撤退』がついに終盤戦へ、経営の王者・李嘉誠氏の脱出録」で詳述したが、ついに、その終盤のまた終着駅に近付いた。

 5月15日付けのブルームバーグは消息筋の情報を引用し、李氏は上海にある200億人民元規模の大型物件を売却すると報じた。

 報道によると、売却対象となる「高尚領域」は、上海市普陀区の中心部に位置する延べ面積120万平米に上る大規模複合開発プロジェクト。官庁や高級住宅、商業施設、高級ホテルを併設するランドマーク的な存在であり、また李氏傘下の長江和記実業(CKハチソンホールディングス)が上海で所有する最後の大型開発プロジェクトでもある。

 李嘉誠氏の中国資産(香港を含む)はすでに総額ベースで1割にまで縮小し、その売却資金のほとんどが欧州等の投資に流れたという。李氏は過去6年にわたって段階的に撤退し、中国からフェードアウトした。現在はいわゆる最終段階の「後片付け」に入っている。

 李嘉誠氏の中国撤退は、先見の明があった。7年前、2012年の中国経済はリーマンショックから回復し、絶好調だった。栄枯盛衰は世の習いとはいうが、あの時点で李氏は今日の米中貿易戦争まで正確に予測できなくとも、概ね世の流れを正しく読んだといえる。

 今、米中貿易戦争が激化するなかで、対米輸出の問題にとどまらず、中国経済全体に異変が起きつつある。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の経済学者、兪偉雄氏は台湾系中国語メディア「大紀元」の取材に対し、米中貿易戦争の激化・長期化で中国当局が直面する最も深刻な課題は、各国企業の中国撤退が加速化することだと指摘した。

「過去30~40年間、世界の工場とされた中国には、世界各国企業の製造拠点が集中した。米中の戦いの激化によって、このサプライチェーンが崩壊の危機にある」

 サプライチェーンの移動について、兪氏は「現在中国で生産されている製品のほとんどは輸出向けだ。米国の関税引き上げで、中国に進出する製造企業の競争優位性が低下し、台湾企業や韓国企業、日本企業、米国企業が今後それぞれ自国、または東南アジア諸国に生産移管するのは、大きな流れになってくるだろう」と分析する。

 中国市場を対象にしていない製造業は、一刻も早く中国から撤退しないと、新たなサプライチェーンの構築や競争に乗り遅れるわけだから、必死だ。産業の中核は何といっても、このサプライチェーンである。

● 新冷戦の行方を左右する「非赤供給網」とは?

 最近、台湾系中国語メディアの間では、ある流行語がもてはやされている――「非紅供応鏈」――「ノンレッド・サプライチェーン」、あるいは、「非赤供給網」。要するに、共産政権である赤色中国以外の供給網のこと。中国語の漢字から「供給網」と訳されることもあるが、少し説明が必要だ。日本語の「供給網」はしばしば「部品供給網」と理解されるが、「サプライチェーン」とは、ある製品が原料の段階から消費者に至るまでの全過程のつながりのことを意味し、厳格にいうと広範囲を網羅する「包括的供給網」である。

 米中のイデオロギー対立に基づく対決の姿勢が際立ち、貿易戦争はもはや通商の次元を超えて「新冷戦」化している(参考:「Made in China」が米国市場から消える日)。このため、中国の「赤色供給網」は狙い撃ちされていると言っても過言ではない。

 台湾・行政院の龑明鑫政務委員は、「台湾経済は短期的に、米中貿易戦争からマイナス影響を受けるが、それで多くの台湾企業が投資を台湾に戻すから、国内では新たな産業集積が形成されるし、さらに東南アジアとの協力によって、『非赤供給網』ができあがるだろう」との見方を示し、「台湾企業が東南アジアの国々で『赤色供給網』以外のサプライチェーンを作り上げれば、向こう20年以内に、世界で中核サプライチェーンの役割を演じることになるだろう」と指摘した(5月15日付け台湾・民視影音報道)。

「非赤供給網」は単一国家でなく、複数の国・地域に分布するだけに、いまのような中国一国集中のリスクが低減される。さらに各国は得意分野に応じて異なる役割を引き受けるという合理性もある。たとえば、ベトナムが労働集約型の製造基地となれば、台湾はハイテク産業の中核を担う。このように形成された地域にまたがる「非赤供給網」はインド洋から南シナ海、台湾海峡、東シナ海、日本海までとつながり、地政学的に自ずと「非赤シーレーン」を形成し、地域安全保障上のアドバンテージとなる。

 一方、サプライチェーンが中国から転出した場合、中国経済は弱化する。輸出型の加工製造業を中心に運営してきた中国は新たな成長源を見つけない限り、大問題となる。大量の外資撤退だけではない。輸出系の中国企業も海外への脱出に乗り出す。相次ぐ企業の撤退や脱出に伴い、産業空洞化が進み、失業も急増する。この辺、中国ではすでに異変が起きつつある。

● 「超エリート」も路頭に迷う就職氷河期の到来

 5月中旬、私の留学先母校である中欧国際工商学院(CEIBS=China Europe International Business School)から1通のメールが届いた――。

「卒業生先輩各位、目下の卒業シーズンに際して、経済低迷の影響を受け、本学では34名の2019年度のMBA学生がまだ就職先を探しています。何とか卒業生先輩の皆様から、就職の機会を賜りますよう、諸般のご配慮をお願い申し上げます。

 今年の就職情勢が大変厳しく、まさに氷河期にあたります。本学就職課の最新データによりますと、従来本学の卒業生をもっとも多く受け入れてきた3大業界の求人が軒並み急減しています。金融業は13%、製造業は7%、そしてMBA卒業生向けのマネージャー候補職は25%も大幅減少しています。市場の萎縮を受け、企業は経験者の中途採用に絞り込み、新卒のMBA学生にとってまさに受難の時代になってしまいました……」

 中欧国際工商学院(CEIBS)のMBAは、英フィナンシャル・タイムズ紙のランキングでは、アジア1位、世界5位という中国人エリートを輩出する名門である。これまで就職に関しては、全員が全員引っ張りだこまでいかなくとも、悲鳴を上げるほど困るようなことはなかった。ましてOB・OGにこのようなメールが送られてきたのは異例と言える。

 中国経済の深刻さがしみじみと伝わってくる。しかし、これはまだ序の口である。中国人民大学が4月に発表した「中国就職市場景気報告」によると、1~3月期の就職市場景気指数(CIER指数)は5年ぶりの低水準となった。同期の中国の求職申請者数は前期比31.05%増で、一方、企業側の求人数は同7.62%減少。CIER指数は1.68ポイントまで下がり、2014年以来の低水準となった。

 同期の中国民間企業の求人数も前期比で13.05%減少。求職申請者数は同52.94%増で、CIER指数は0.8ポイントとなった。前期の1.41ポイントから大幅に落ち込んだ。同期の国有企業のCIER指数は、求職申請者数が大幅に増えたことで、0.43ポイントに低迷。「1つのポストに対して、求職者2人が競い合っている」状態であるという。

 中国では今年、過去最大となる約834万人が大学を卒業する見通し。米中貿易戦争の激化に伴い、外資企業の撤退だけでなく、中国系製造業もアジアへの移転に動き出している。リストラの急増とともに、新卒の需要が大幅減少している。中国にとっては経済よりも失業問題が最大の危機となるだろう。

● それでも残る企業に必要な「6つの条件」とは?

 ワーカーよりも、ホワイトカラーの失業問題がより深刻な結果をもたらす。失業すれば、住宅ローンが払えなくなるからだ。中国の不動産バブルの崩壊は、おそらく時間の問題だろう。そういう意味で李嘉誠氏の撤退はまさに英断だった。

 先日、在中国の日系企業からある質問をされた。「今後、どんな(日系)企業が中国に残れるのだろうか」。非常に重要な問題だ。基本的に個別企業の評価となるが、ごく一般論的な私の独自基準では、これから中国国内に留まっても問題ない、あるいは留まるべき日系・外資企業には、以下6つの条件が必要とされる。

1.ビジネス(取引先を含む)は米国市場と関係なく、あるいは別系統によって棲み分け可能であること。

2.他国ルートの製造・輸入、あるいは中国国内のOEM製造(他社へ委託製造)に依存すること。

3.中国国内では特殊ユーザー・顧客層向けの販売業務が主力であり、製品の代替性が低く(独占的優位性を有すること)、しかも、景気の影響をあまり受けないこと。

4.中国に固定資産を所有せず、販売代理網を使用し、あるいは少数精鋭の営業部隊のみを雇用し、賃金は歩合制(変動費)であること(損益分岐点が低いこと)。

5.与信期間が短く、あるいは現金商売、債権取り立てが簡単であり、しかも、できれば売り上げや利益の定期・小分け的な海外送金が可能であること。

6.その他特定の条件。

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