JモードとCモード、自己否定と過去否定

 C社グループの新任日本人駐在員集中研修。私は半日の時間で、労働法と人事労務セッションを担当する。上海と広州で合計40名近くの規模。名付けて「異文化研修」。

 とても良いネーミングの研修だ。異文化を受け入れることは、いかに難しいことか。人間は生まれ育った環境の文化をDNAのように体内に吸収し、それがやがて一種の思考回路を形成する。すると、無意識のなかこの種の思考回路で、人間は自身の価値観で物事を判断する。

 いざ異文化の受容を求められると、「あなたは、いままでやってきた常識に反するものを受け入れていいのか」と自身に付着したDNAが警告メッセージを発する。人間は自分の常識に反するものをなかなか受け入れない。自分のこれまでの経験知を否定するものに対し、激しく、本能的に、無意識に抵抗するからだ。まるで体内に侵入した菌やウイルスを殺すための発熱機能のようだ。

 自己否定は、さらに難しい。しかし、異文化の受入れとは、ある意味で一種の自己否定であり、過去否定である。中国に来て苦労している日本人にとって、一番の敵は中国ではないし、中国人でもない。その人自身なのである。いや、これは一般論としても成り立つのだろう。

 なので、ぜひ、今後は、「自己否定・過去否定研修」として開設してほしい。自己否定・過去否定をなくして、真の異文化を受け入れることはありえないのである。

 異文化の受入れは、決してアイデンティティーの放棄、転換または喪失を意味しない。一種のモードの切替に過ぎない。この基礎力を身につけると、モードの数をどんどん増やしていけばよい。日本人はJモードをアイデンティティーとしながらも、中国人のCモードや韓国人のKモード、あるいは西洋人のWモードを持ち合わせることも可能だ。

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