出口リスク管理、下船できぬクルーズ船内感染事件の教訓

 COVID-19(新型コロナウイルス)による大型クルーズ船内感染事件が深刻化している。

 私はとにかく人混みが苦手で、やたら数千人規模の豪華巨大客船が大嫌いだ。いままで乗ったことがあるのは、北欧ノルウェーの北極沿岸航路とベトナムのハロン湾の、いずれも中小型クルーズ船だった。

私が乗船した北欧ノルウェーの北極沿岸クルーズ船

 北極航路はクルーズというよりフェリーも兼ねているので、300~500人乗り規模の船が中心。それでも大変恐怖心をもった。何よりも、「出口リスク」の問題。仕事柄、企業の新規市場参入や海外進出については、参入関門という「入口」以前の問題で、まず「出口戦略」が最重要だからである。

 逃げ道を確保する。サバイバルに欠かせないトップ・プライオリティ。ホテルにチェックインしたら、非常口と避難経路の説明がある。飛行機や船の場合でも一応説明はあるものの、それは陸上直結ものではない。さらに2つのリスク係数がある。1つは脱出総人数、もう1つはリスク滞留(存続)期間の長さ。いずれも船リスクが相対的に高くなってしまう。

 数千人乗りの大型クルーズ船。1000も2000もの部屋のあるホテル、いつでも陸上に直結する脱出口がないとは、不安で仕方ない。とばかり考えていたが、着岸しても降りられないことがあると、今回の事件で分かった。

 海上を移動する豪華ホテル、料金もリーズナブル、移動の苦労がない……。業者の宣伝は常に客の利益にフォーカスする。リスクにはほとんど触れない。これは情報の非対称性(取引が行われる際に売り手と買い手に存在する情報格差)という。情報の非対称性を克服するには、買い手側の能動的な情報収集と分析力が必要だ。

 今回のクルーズ船問題。船会社が料金の全額払い戻しを約束してくれた。でも考えてほしい。もし、ウイルスのさまよう豪華客船だが、2~3週間食事・宿泊付きの無料滞在に招待されたら、あなたは行きますか?

 中国もある意味で1隻の巨大クルーズ船である。

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