嫉妬学(5)~「偽強者」が妬まれる日本企業の雇用現場

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 どんな社会制度においても、不平等現象は消えない。救済措置はたった1つしかない。それは流動性だ。不合格・失格者が上層から下層へ転落する一方、有能な下層者が底辺から這い上がる、という双方向の流動性を確保しなければならない。

 日本社会の場合、企業正社員と契約社員の格差ほど不平等な制度はない。いわゆる非正規雇用の問題。非正規雇用とは、有期労働契約に分類され、契約社員(期間社員)やパートタイマー、アルバイトなどの雇用形態を指している。日本だけでなく、世界的にもみても、非正規雇用の比率が高まりつつある。

 高水準の非正規雇用は何を意味するか。財務的に考えると分かりやすい。正社員の人件費が固定費であるのに対して、非正規雇用社員の人件費は変動費、あるいは準変動費である。非正規雇用の社員は経営状況によって解雇・雇い止めできるからだ。この通り、実は日本企業にも、「人件費の変動費化」という高い潜在的需要があるのだ。なるべく雇用や賃金の流動性を求めたい。これが非正規雇用比率の高止まり現象につながっている。

 よく見ると、これは「ハイリスク、ハイリターン」の原理に反していることが分かる。本来ならば雇用の流動性と引き換えに高給が付与されるはずだが、なぜか日本の非正規雇用は「ハイリスク、ローリターン」に逆転してしまっているのだ。その原因を追及すると、戦後の高度経済成長から生まれた雇用制度という背景があり、話が長編に及ぶので、ここではやめておこう。

 「働かないおじさん」。最近深刻な問題になりつつある。これも実は、妬みの問題である。ただ妬まれる対象が異なる。前述したように、強者でなく、「偽強者」が妬まれているのだ。実力を伴わない待遇を受けているだけに、軽蔑混じりの嫉妬か、嫉妬混じりの軽蔑なのかもしれない。

 強者に対する嫉妬は、どんな人にも生じ得る自然的な情念であるのに対して、「偽強者」に対する嫉妬や軽蔑は、制度的欠陥の所産であり、流動性の欠落を示唆するものである。故に、日本の場合、正社員と非正規雇用の間に敷かれた壁を取り払う必要がある。上位者の転落もあれば、下位者の上昇もあるという流動性、あるいは相互浸透性を形成しなければならない。

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