ペロシ訪台のインパクト(3)~「後足で砂をかける」ペロシの本質

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 「立つ鳥跡を濁さず」というが、ペロシの台湾訪問はむしろ散らかしっぱなし、「後足で砂をかける」よりひどい状態だ。中国のミサイルが台湾島上空を通過するのはまだしも台湾の問題だが、日本の排他的経済水域(EEZ)内にまで5発ものミサイルが落下した。

 繰り返してきたように、「事実認識」と「価値判断」は別問題。混同してはいけない。民主主義は善で、独裁専制が悪。ペロシの台湾訪問もこういった善悪の価値判断よりも、結果的に台湾ないし日本が危険な立場に置かれるという事実認識に目を向けざるを得ない。

 どんな損害を被っても、どんな危険を冒しても、民主や自由といった価値観を守りたいというなら、それは結構なことだ。しかし、その判断は国民一人ひとりが下すものだ。それが民主主義の本旨ではないだろうか。

 「我に自由を与えよ、然らずんば死を」という立派すぎるくらいの人(「人格者」という名もまた価値判断でしかない)もいれば、生き延びるために不自由を自ら引き受ける人もいる。これも善悪の価値判断で画一的に処理できないし、してはいけないのだ。

 中国との付き合いも然り。独裁が悪だと罵倒しても、中国のサプライチェーンだけは捨てられない。中国市場もほしい。インバウンドとかいって、結局チャイナマネーは欲しいわけだ。これらを批判していけない。経済的利益のためにダブルスタンダードをもつのもあっていいと思っている。みんな生身の人間なんだから。

 「反中」ブランドのペロシ本人は民主主義の闘士役を引き受けている。これは独裁という悪に対置された時点で大義名分を手に入れる。訪台の成功で彼女は政治的レガシーも手に入れた。しかし、台湾や日本、アジア諸国がどんな苦境に陥っても、彼女には無関係なのだ。

 「反中」は昨今、一種のポリコレになった。保守主義者が中国を褒める一言でも言ってみたら、ただちにレッテルを張られる。だから、ポリコレというのは左右共通している。このポリコレで大儲けしている政治家は一人や二人ではない。

 「反中」ブランドで政権の座にしがみついている蔡英文民進党も然り。ペロシ来訪は中身よりも来訪それ自体に利益を見出す。ペロシが去った後台湾国民が直面する不利益やリスクはもはや重要ではない。

 最後に習近平もバカではない。アメリカとは戦わないと決め込んでいる。叩ける台湾ないし日本を叩くのが得策だと彼はよくわかっている。民主主義制度の弱点も知り尽くしている。

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