早速、現実になった。前編では、「ペロシ訪台の影響は民間に跳ね返ってくる」といったが、予想よりも中国の動きが早い。大量の中国軍機が台湾海峡の「中間線」を超えた。さらに、台湾島を包囲する形での軍事演習も始まった。事実上の台湾海峡封鎖ないし台湾島封鎖である。
台湾産の太刀魚のほとんどが中国向けの輸出。中国は禁輸措置を発表した。軍事演習で漁ができなくなり、輸出もできなくなった以上、台湾の漁師はどう生きろと言うのか?漁師へ補償を出すなら、財源は国民の血税。民主や正義の代償は結局、何らかの形で庶民に跳ね返ってくる。
太刀魚は単なる氷山の一角にすぎない。これからどんどん影響が広がるだろう。何よりも、第一列島線は実質的に崩れつつある。ペロシの18時間の訪台は、盛り上がった。祭りの後、中国は早速従来の「一線を超え」た軍事・経済のダブル「台湾島封鎖」を始めた。
ペロシは「Who scare」で訪台し短期的には政治的勝利を収めた。これから台湾のことは?「Who care」?中国の取った「一線越え」行動には、米国はだんまり。ペロシ祭りのツケが回ってきたことで、文句も言えないわけだ。ペロシ搭乗機を撃墜しなかっただけに感謝しなければならない。
以前も述べたが、ウクライナは欧州と陸続きだが、台湾は孤島である。ウクライナへの武器弾薬の支援はなんとか陸路経由で可能だが、台湾は不可能。中国が軍事的・経済的「台湾島包囲」に踏み切った場合、日米はその包囲網を突破して台湾支援できるのだろうか。それはつまり対中宣戦布告同然。
今回は中国が台湾を包囲し、複数の海上で軍事演習を行うと、民間航空機や船舶の台湾海峡通行ができなくなり、迂回通行を余儀なくされる。コスト増などの経済的損害は一度きりならまだしも、今後常態化した場合、経済への影響が莫大だ。台湾海峡はマラッカ海峡と並ぶ世界でもっとも重要な海上通路の1つであるからだ。
通商への影響は、サプライチェーンに対する影響でもある。これも以前述べたが、中国はコロナの(上海)ロックダウンでサプライチェーンの寸断による影響を、自虐的にテストしてきた。サプライチェーンの中国依存は、すでに西側諸国の致命的弱点になっていることを中国はよく知っている。
ロシアのエネルギー、中国のサプライチェーン。露中が連合して封鎖を行った場合、西側諸国はもたない。民主主義の正義と経済的利益を天秤にかけるなど大変無節操な言い方ではあるが、切実な現実問題ではないだろうか。ウクライナ支援ブームは半年も持たなかった。台湾は?民主主義国家は、結局大衆の個人利益がものを言う。
戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり。ペロシ訪台、中国は今回武力を使わなかったが、「一線を超える」口実を手に入れた。その一線で台湾や世界の分断が加速する。
民主主義国家の弱みは「民衆」にあり。時局が中国に有利な方向に発展するかもしれない。