ラオックスが中国で訴えられたら、お気軽仲裁訴訟が怖い

 ラオックスは4月下旬に東京・新宿とお台場に出店する。新宿に出す新店は2月末に閉鎖した「さくらや」の専門店の跡に入居する。さくらやを退職した従業員も20人程度採用する(日経新聞3月25日付報道)。

 そこで、「さくらや」で働いた従業員が、ラオックスに転じてさらにラオックスを離職する際に、「さくらやの勤続年数も算入して補償金を支払ってくれ」とラオックスに求める。さらに、「さくらや」の前職が「ヨドバシカメラ」だった従業員が、ヨドバシカメラ時代にまで遡って、全期間対象の経済補償金、ならびに無期限労働契約不締結の賠償金などすべての権利を、ラオックスに請求して、係争に持ち込む・・・

 ぞっとする。後半が作り話といっても、ここ、中国では実話だ。先週、私と弁護士が広州出張して、扱った労働仲裁案件は、このような事件だった。

 こんな係争なら、労働者に勝ち目がないと思ったらいけない。ちゃんと勝っている労働者も少なからずいる。内情は、係争中の案件につき明らかにできないが、中国の労働現場では、日本の経営者の「常識」で考えられないことがあまりにも多い。

 いまの中国の労働者は、「気軽に」仲裁や訴訟を起こしている。労働仲裁は無料(訴訟でも1件10元)だから怖い。無料だから、とにかく起こして見る。企業から金を取れたらラッキー、取れなくても実損は交通費くらいで済む。じゃ、弁護士代は?というと、いま、無料に近い状態で労働者から仲裁や訴訟を引き受ける弁護士が各地にいる。無料か格安の着手金で案件を引き受け、企業からお金を取れたら、通常より高い率の成功報酬をもらう。どうせ、暇で遊んでいても仕方ない。なかに、いままで売れなかった弁護士で一気に金持ちになったりするケースもあるようだ。これは、いま中国労働法曹界の「ニュー・ビジネスモデル」だ。

 労働者の大多数は善良だ。しかし、その背後に潜んでいる法律専門家たちのことを忘れるべきではないだろう。

 法改正前は、1件につき数百元かかったが、無料となると、誰もが気軽に仲裁を起こしてしまう。さらに怖いことがある。請求金額は、数万元ならまだしも、なかに数十万元、数百万元というとんでもない金額を請求する輩もいる。労働者はただでも、企業はただではない。企業弁護士は、通常案件の訴訟金額(請求された金額)を基準にフィーを計算する。1件、2件ならもだしも、10件や20件になると、中小企業は訴訟倒れになり、潰れてしまう。

 だから、世の中は、ただほど高いものはない。ただほど怖いことはない。「お気軽労働紛争」は怖いし、お金もかかる、企業にとっては。

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