なぜ訴訟に勝てるのか、相手側の弱みをつつくとは何か?

 「申立人(労働者)のすべての申立請求を棄却する」

 裁決書が本日届けられた。顧客企業が全勝。当社が引き受けたK社労働紛争仲裁案件(「2010年03月24日 広州労働仲裁出張24時間勤務」)は、全勝の結果を得た。広州の地で2度目の全勝だ。当社の若い顧問弁護士が善戦した。

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 労働仲裁の無料化と労働裁判の低料金化は、表向きには労働者に仲裁・訴訟という高い関門を取り払ったことになるが、実質上賭博場化してしまっている。無料だから、とりあえず「賭けてみよう」。勝ったらラッキー、負けても大した損はしない。それに、一部弁護士や専門家が労働者を唆し、訴訟をさせる行為もあるようだ。

 「和諧社会(調和の取れた社会)」、中国が目指す目標である。しかし、一連の労働新法の実施結果を見る限り、正反対の方向を走っている。ある法律が「善法」か「悪法」、それをどう判断するか。その法律の立法趣旨が、実現されたかどうかを見るべきであろう。現状では、新法が「善法」なのか、「悪法」なのか、あるいは「愚法」なのか、みんなそれぞれ判断すればよい。

 本日(4月29日)、新たに、労働仲裁案件を3件引き受けた。中国はいよいよ労働訴訟の全盛期に入った。

 仲裁や裁判案件の取り扱いでは、私がもっとも重要視するものは「相手の目線」。つまり、会社が労働者に訴えられた場合、まずありがちな「会社目線」を捨て、労働者の目線で諸問題をじっくり吟味することだ。そう、私が、もし相手だったらこうする。完全に相手の役になりきる。相手のロジックを探り出すと、相手の主張に重ねて見る。そこで見出される矛盾があれば、とことんそれを叩くのだ。いわゆる、自分のロジックで自分の主張を否定することだ。これは、訴訟現場でもっとも有力な武器である。

 多くの中国人弁護士に、致命傷がある。ロジックに弱いことだ。とにかく、主張できるものはすべて主張する。主張1も、主張2も、主張3も、主張4も。その4つの主張を形成するロジックを丁寧に洗うと、たとえば主張2と主張4のロジックに矛盾が見つかれば、主張する側が直ちに不利な立場に陥る。本来ならば、訴訟戦略の起案段階で、弁護士がそれを分析して、ロジック上の矛盾を見出さなければならないのだ。主張2と主張4を同時に主張できないことに気付けば、より利益の多い主張2を取り、思い切って主張4を切り捨てることも必要だ。しかし、無節操に4つの主張をすべて出してしまうと、主張がすべて無力化し、裁判官の心証にも大きく影響する負の結果になってしまう。

 「戦略」とは何か。簡単に言うと、やることとやらないことを決めることだ。やることばかり決めることは、戦略とはいえないし、ひたすらやらない「不作為」を続けることも戦略ではない。戦略の構築は、緻密なロジック・シンキングをベースとする。しかし、中国の法学院では、ロジカルシンキングはあまり教えられていない。私が復旦で法学修士課程に入っていたときは、わずか1コマのカリキュラムしか設けられていなかった。大学の本科などは、基本的にロジック・シンキングたる科目はない。

 法律の現場では、「証拠」と「ロジック」を制するものは裁判を制すといっても過言ではない。「証拠」は当事者の保全状況次第だが、「ロジック」は弁護士に頼るしかない。

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