「名誉と感謝は国家に、不正や汚名は本人と家族に」のロジック

 「2010年4月30日 中国の五輪選手の年齢詐称」「2010年4月29日 ロジック問題」と、連続2日関連性の強い話をしたが、それらをつなげてみよう。

 ロジカルシンキングで、中国スポーツ界の不正事件を論証する。

 まず、【事件2】(上記4月30日ブログ記事参照)では、中国国家体育総局は、中国人選手がメダルを獲得したのは、国家のお蔭で、まず国家に感謝すべきだと、つまり「名誉と感謝は国家に」という論点を提示した。では、この【事件2】の論点を仮説として、【事件1】(上記4月30日ブログ記事参照)を論証しよう。

 すると、【事件1】では次のロジック(推理)になる――。中国女子体操・董芳霄選手が年齢詐称して五輪出場した。→ 五輪出場はメダルを獲得するためだ。→メダルの獲得は国家の名誉である。→では、董芳霄選手は国家の名誉のために年齢詐称をした。――という結論になる。

 国家の名誉のため、悪事を辞さずというロジックは成立するのだろうか。少し違和感があるだろう。いや、少しではない。たくさんだ。では、国家の名誉のためでなければ、個人や家族の名誉のためになる。つまり、私利のための悪事、ならばずいぶんロジックの展開がスムーズになる。

 そこで、もう一度【事件2】に立ち返ってみよう。「私利のための悪事」という仮説が成立すると、それが【事件2】の「国家の名誉のためのメダル」というロジックと矛盾してしまう。だから、国家体育総局の【事件1】と【事件2】でのロジックは相互矛盾する。

 もう一歩進んで掘り下げて論証する。そもそも、「私利」とは何か。「私利」とは個人や家族の利益、そのレベルを少し上げていくと、「特定集団の利益」になる。日本の政治家は、不正事件の責任を問われると、すぐに「秘書が勝手にやった」としらをきる。特定の政治家あるいは民○党や自○党の利益のために、秘書が自分の判断で不正事件を勝手にやるのか。そう、利害関係のロジックに矛盾が生じるわけだ。

 人間や特定の利益集団は往々にして「大義名分」を担いで、「私利」を図る。この仮説のもとでは、さまざまな現象が見事に解明され、ロジックもすーっと通るようになる。

 最後の仮説だが、「スポーツ選手は勝手に年齢詐称をして五輪出場したことで、体育総局や国家チームに何ら責任もない」という仮説が成立すれば、企業が年齢詐称した未成年者を違法雇用し、勤務させたときも、企業はその責を問われないことになろう。国家体育総局が公権力を動員しても一国民の年齢さえ把握できなければ、一民間企業は労働者の申告した年齢を正確に把握できるのだろうか。

 もちろん、日本の政治家は不正事件の責を秘書に帰す際も、是非、中国国家体育総局のロジックを活用すればよい。

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