中国の美しいお粗末

● 定刻出発率ゼロの便

 このブログでもたびたび取り上げているが、この半年、私はほぼ毎月1回の広州出張に、広州空港から定刻出発したのは、ゼロ回だった。30分や1時間の遅延は当たり前、ついに先日、5時間40分と、私の航空機遅延体験記録を塗り替えた。

 中国網の記事(2010年5月16日付)は、民航局の発表を引用し、「定刻出発率ゼロの便名」というブラックリストを発表した。案の定、広州空港出発便がずらりと並んでいる。「定刻出発率ゼロ」とは、全便遅延ということだ。

37684_2立派な上海虹橋空港新ターミナル

 広州空港はひどいが、首都北京も負けていない。

 米「フォーブス誌」が発表した2009年のデータによると、北京首都空港は世界でもっとも遅延が深刻な空港とランキングされているようだ。

 もちろん、上海の虹橋、浦東両空港の遅延状況はいまさら言うまでもない。

 「流量管制」、「機材到着遅延」、「整備不良」、「悪天候」と、遅延の口実は実に多彩である。しかし、もっとも重要なことには触れていない。航空会社や空港の怠慢、オペレーションの非効率、生産性の低さである。

 航空会社の運航効率といえば、われわれ乗客はなかなか内情を知らない。けれど、乗客でも目測できるベンチマークを一つだけ取ってみてもすぐ分かる――「駐機時間」、ゲートに駐機してから整備、搭乗を終え、出発するまでの所要時間。先日、広州空港に5時間以上も遅延して飛来した飛行機は、何と駐機時間は1時間以上もかかった。

 米サウスウエスト航空が、駐機時間を10分~20分に短縮するために自動車レース「インディ500」のピットクルーの効率的業務に学んだ。それと対照的に、中国の航空会社や空港では平均4倍以上もの駐機時間が要されているのは、非効率や怠慢にほかならない。

 やたら「世界最大」や「世界最長」などを自慢したがる中国だが、是非、「世界最高の効率」を示してほしい。飛行機が早くても、客室乗務員が若く美しくても、空港が大きくて立派でも、「上海・北京エクスプレス」とかいっていわゆる1時間1便の空中シャトルが自慢されても、ふたを開けると、遅延だらけでは元も子もない。

 見えるところは美しく、見えないところはお粗末。中国のいたるところに「美しいお粗末」が横行している。

● 地上の美しさと地下のお粗末

 中国の経済成長といえば、まず都市部に立ち並ぶ立派な高層ビルを連想する。十数年前の写真を引っ張り出して比較すると、街並みの変貌振りには驚くばかりだ。一方、中国の住宅もそうだが、どんな立派な5つ星ホテルに泊まっても、高い確率で遭遇するのは、水周りの問題だ。水漏れ、詰まりに悩まされる。直しても直してもまた再発する。

 下水道や排水溝、配管工事がお粗末で、水増し工事は日常茶飯事。見えるところは立派でも、見えないところはお粗末。これも、「美しいお粗末」の一つである。そして、折角作った立派なビルは、爆竹で焼かれてしまう(写真、09年旧正月、関係者らの違法爆竹・花火で全焼した北京・中央テレビ局新築ビル)。林立する高層ビルの谷間で花火を打ち上げる危険性、法律・制度を無視(無知?)しての愚挙には絶句する。これも甚だしい「ソフト部分」の問題だろう。誠にお粗末だ。今度は、「お粗末」にやられる「美しさ」だった。

37768_2全焼し、再建中の北京・中央テレビ局新築ビル工事現場

 写真に映っている、再建中の中央テレビ局ビル工事現場の外壁に、宣伝文句が大々的に掲げられている――。「在更高層次上実現又好又快的発展」、「更なる高いレベルにおいて、早くて良い発展を実現せよ」ということだが、「高いレベル」とは何か?また「良い発展」とは何か?考えさせられるものだ。

37768_3暴雨後の広州(2010年5月、百度写真)

 先日(2010年5月)、暴雨で広州の街がマヒ状態に陥った。大面積冠水の被害で船にならず沈没した大量の自動車に注目が集まった。自動車のディーラーによると、保険に加入していても、対象外の部分は多く、たとえば座席などは乾かすだけで交換は保障されない。中国網は以下の記事を掲載した。

 「BMWに乗っていた邱さん。普通、中古車として売る場合だと、邱さんのBMWは70万元ほどで売れる。修理代は何日も水に浸かっていたため約150万元。最終的に邱さんは売ることにした」

 売るにはまだしも良いが、次の買い手は、まさに「美しいお粗末」を買わされることになるだろう。「美しいお粗末」は悪循環だ。

37768_4駐車場冠水で泥だらけになった車(2010年5月12日、中国網写真)

 街の浸水について、広州市都市計画局市政処の当局者が「華夏時報」の取材に、「市政計画は地下排水配管網の問題に関わっていない。これは広州市水務局の管轄事項だ」と責任を蹴っ飛ばした。高層ビルをどんどん建てれば、役人の政績(政治実績)になるが、見えないところ地下排水の整備には誰もが手をつけようとしない。ここが、「美しいお粗末」の根源だ。

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